神々の旗印⑭


 すると案の定、驚いたのはジェリー・アトキンスの姿をした黒塚勇斗である。彼は目ん玉をひん剥いたままその場に硬直してしまう。

「あ、あんたは……、は、は、はざ、はざま……!?」

 なにせ、いきなり目の前に現れた男とは、何を隠そう初陣にて危うく命を奪われそうになった伝説の兵士である。

 しかもあの時は、フェイズウォーカーを上手く操れず、羽間正太郎の駆る烈風七型に雁字搦めにされた挙げ句、回線を通じていきなり、

「殺す」

 とまで言われ、最後通告を受けた相手なのだ。

 そしてさらに、その瞬時黒塚勇斗は死の恐怖におののく余り、思わずコックピット内で小便を垂れ流した苦い経験がある。

 またさらに、そこで固まってしまったのはジェリー・アトキンスの姿をした黒塚勇斗だけではない。なんと、黒髪の美少女の姿をした〝早雲〟もその一人だった。

 彼女も黒塚勇斗と同様に、同じ場所、同じ瞬間にその恐怖と絶望を味わったフェイズウォーカー〝方天戟17号〟に搭載されていた人工知能ユニットなのである。

「お、おい、どうした? 二人とも? 何二人で時間止まってんだ?」

 そんな事情があるとはつゆ知らず、正太郎はキョトンをとした眼差しを送る。

「あ、あ……、あ、あ、あ……、あの……、いや……その、べ、べべべべ、別に……」

 黒塚勇斗とて、羽間正太郎と直接対面するのは初めてだった。が、あの事変の直後、立場上何度も彼のデータを見聞しなければならない機会に立たされていた。ゆえに、彼の本当の顔を知らないはずがない。

 そのトラウマとも言うべき伝説の男が余りにも唐突に姿を現せば、いくら何でもパニックに陥る。

 実際には、正太郎はいつもの調子であっけらかんと声を掛けて来ているが、黒塚勇斗の目には、唐突にジャングルの中から飢えた野獣が飛び出てきたよう感じられて仕方がないのだ。

「あ、あ、あ、あの……ほ、ほ……」

「ほ?」

「ほほほ、本日は……お日柄も良く……」

「は? 何言ってんだテメエ。お日柄なんかちっとも良くねえよ。なあ、ジェリーよう。テメエ、どっか戦闘で頭がいかれちまったのか? それとも戦闘のやりすぎの後遺症か何かか?」

「い、い、い、いや……その……」


 

 

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