神々の旗印⑪

 

 その華奢な美少女は、思わずびくりと背筋をかがめて少しだけ驚いたような対応をしつつ、

「あ、ああ、びっくりした……。あんまり驚かさないでくださいユートさん。突然後ろから声を掛けて来るなんて……」

「ご、ごめんよ、早雲。でもさ、こうやって余った機体を探し出すには、誰にも見つからないように事を穏便に運ばないと……」

「そうですけど……。私もあんまり驚かされると、ついいつかのように、勢いでユートさんのことを殴り倒してしまうかもしれません」

「あ、ああ、そうだね。じゃあ、これからは気を付けるよ……」

 正太郎は、そのやり取りを聞いて冷や汗が流れた。

 彼はあの坑道内で起きた悲惨な光景を目の当たりにしている。どんな過失であったとしても、あの黒髪の美少女のしなやかな腕に叩かれようものなら、たちまちあの世行き確定だ。

 そしてさらに驚いたのは、ジェリー・アトキンスの姿をした男が、あの美少女の殺人張り手を見舞われた経験があるということである。

「ど、どう言うんだ一体……。あの二人は揃いも揃って化け物なのか?」

 会話を窺うと、どうやら二人はパイロットを失ったフェイズウォーカーを物色しているらしい。

 戦場ではよくある事だが、無事中身のパイロットが生き残ったとしても、フェイズウォーカーだけがやられてしまうこともあれば、またその逆に、パイロットだけが死亡して、フェイズウォーカーだけが生き残ってしまうケースもある。

 この時代の人工知能は感情機構という最新のプログラムが付与されているだけに、人間との相性というものが重要視されている。

 ゆえに、昨日の激しい攻防戦のあった後には、互いにはぐれ者同士となった人間とフェイズウォーカーの相性診断などが数限りなく行われる。

 その行為を第三者から見れば、何とも感情的で繊細なもののように感じてしまいそうになるが、実際に戦闘を行うともなれば、その相性診断こそが微妙な差を生み、中には最悪に見舞われてしまう可能性も無きしもあらずなのである。

 そのことを誰よりも良く知っている正太郎である。それだけに、彼ら二人がそこで何をしているのか大体は理解出来ていた。

(やつら……、ここでフェイズウォーカーを奪って何かを企てていやがるんだな……)



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