虹色の人類128



 少女はまた、奇声を発するが如く涙ながらに叫んだ。

「返して! 私の体を返して!! 私、もうこんな嫌な目に遭いたくない! だから、その体を私に返してください!! お願い!!」

 そこに、実に頼りなさげなジェリー・アトキンスが割って入り、

「そ、そうだ! そしてついでに俺の体も元に戻してくれ!! 俺たちはもうこんな生活は嫌だ! なあアルフレッド博士。俺たちは、あんたに変てこな施術をされて以来、あの手足だけの変な生き物に付きまとわれて凄え困ってるんだ! アイツら、まるでどこかに微妙な匂いを嗅ぎ分ける鼻があるみたいに俺たちを見つけては四六時中寝ても覚めてもこの身体を狙って来やがるんだ。そんな生活、もう耐えられない。何より俺は、早雲に……!」

 と、彼が言い切ろうとしたその瞬間だった。彼らが相対したフェイズウォーカー方天戟のハッチがおもむろに開き、そこから山吹色を基調としたパイロットスーツ姿の少年がしゃしゃり出てきた。

 そして、あろうことか、若いなりをしているにもかかわらず、年寄りのように腰を折り曲げつつ、

「おうおう、何を言っておる少年。そして機械の娘っ子よ。その体はな、お主らには勿体ないぐらいの素材じゃ。何しろ、ジェリーとか言うその男の体は、生前お主がどうあがいてもどう背伸びをしても到底かなわぬ戦闘力を持った立派な戦士じゃった。その格別の動体視力も身体能力も、その男が生前に子供の頃からコツコツと鍛え上げてきたが故の貴重な産物じゃ。そこにわしがさまざなダメージに対応できるように、簡単な再生能力も付け加えた傑作なのじゃ。お主のように、子供の頃から生半可な生活をしていてはそのような能力は絶対に育たぬものじゃからのう

 彼は、一度口に手をやり、ゴホンと咳払いをすると、

「……それになあ、機械の娘っ子よ。お主も難儀よ喃。わしは、お主が機械で生まれ育ったことを悔やんでいたことを以前から知っておった。じゃから、儂はお主を取っておきの可愛らしい生身の人間の女子おなごに変えてやったのじゃ。それ、その体とて、儂が一から分子レベルで生成して作り上げた特別純粋培養なのじゃ。どこにも傷一つない完璧な体だと言うのに、一体何が不満だと言うのじゃ。お主とて、あのまま戦闘マシンでいれば、いずれは戦場で朽ち果ててスクラップになってしまうに違いない。それならば、いっそのこと好きな男と添い遂げて、一瞬でもいいから女の幸せに身を興じて見るのも良かろう。ええ? 一体全体何が不満だと言うのじゃ?」



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