虹色の人類104


  大膳は、自分の複製人類に促されるがまま、秘密の通路を抜け厳重なチェックを何度も潜り抜けながら地下深くにしつえられた入り口に差し掛かった。

 そこには警備兵などといった人気の欠片もなく、ただ漫然と厳重な扉と監視システムが置かれているだけである。

「どうやら随分と深いところまで潜ったようだが……まだ潜るのかね?」

「いいや、ここでお仕舞いだ」

「やれやれ。かれこれここまで来るのに小一時間も掛かっている。ここにはそんなに重要なが眠っているのかね?」

「ふふっ、来れば分かる」

 オレンジ色の拘束衣を着た大膳は、そのなりも気にせずに扉の前に立った。彼はそこに身を委ねる様に体を押し付けると、

「さあ、貴様もここに立つのだ。そして私と同調するのだ」

「同調だと?」

 当の大膳は、彼の言っている事の意味が解からなかった。しかし、その姿がゆっくりと虹色の姿に変貌してゆく様を見て、

「貴様、元に戻るのか?」

「そうだ。ここは貴様の姿が二人居ては入ることが出来ん。だが、私の元の姿で認証されれば……」

 彼がそう言うと、三メートル四方もの何らかの金属で出来た扉が光り始めた。

 大膳にはそれが扉のように見えているのだが、一向に開く様子ではない。しかし、そこに佇んでいるだけでその眩い光の奥が透けて見えるようになって来る。

 それはあっという間の出来事だった。

 彼らは一歩も足を動かさなかったにもかかわらず、認知する暇すら与えられずに別の空間に飛んでいた。

「何だ? 何なんだこれは? 次元渡航でもしたと言うのか?」

 大膳はまだ信じられぬと言った表情で辺りを見渡す。

「それは違う。貴様らの言う次元渡航などというものではない。あれよりずっと簡単な原理だ」

「な、なんだと!?」

 大膳の傍らには、玉虫色に光る人型の生物が佇んだままだ。間違いなくそれは、いままでオレンジ色の拘束衣を纏っていた大膳もどきの姿であろう。

「するとここはどこだというのだ? 私をどこに連れてきた?」

 焦燥の色を隠せない大膳である。しかし、目の前の玉虫色の男は、

「ここが我々の本来の住む世界なのだよ。我々五次元人のな」



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