虹色の人類86


 少なくとも、これはエナの分身の仕業ではない。あの分身たちは、全て正太郎の目の前で飴のように溶けてしまっている。そして、彼女の命を狙うとするならば、

「クッ……、そういうことか。エナ、お前はこの俺に、言っちゃあならねえことをペラペラと喋り過ぎちまったってことだ……」

 正太郎は言うや、反射的に腰のホルスターに手を伸ばした。だが、彼のレーザーソードはもうエネルギー切れを起こしている。

 間違いない。エナの命を狙ったのは何はなくともペルゼデールである。もしくは、それに関わる誰かだと考えられる。しかし、彼女がここまで心酔している存在であるにもかかわらず、こうも簡単に命を狙って来るものなのだろうか。

「……ったくよ、神と崇められるにしては結構せこい手を使うってもんだぜ。にしても、このままではエナの命が……」

 ここは坑道の奥底である。正太郎が、先ほどまで彼女とドンパチやり合った場所からもかなり離れており、早々彼女を担いで運び出すには手間も時間もかかり過ぎる。

 ましてや階層も下へ下へと逃げ込んで来た故、到底フェイズウォーカーの入れる余地などないのである。

 ミックスたるエナ自身が、いかに烈太郎の休眠モードを解いたとしても、烈風七型の機体の大きさから言えばそれは徒労に終わってしまうことだろう。

 そして、彼女の治療のために無理矢理地上に運び込んだとしても、彼女の出血具合から言えば確率的に手遅れであることは間違いない。

 つまり、この状況を一言で言うなれば、言わずと知れた八方塞がり状態なのだ。

 正太郎が、歯を食いしばり口を一文字にして唸り声を上げていると、

「ね、ねえ……、ショウタロウ・ハザマ。もし、あなたがあたしを助けたいと思っているのなら……。あたしをもっとこの奥まで……連れて行って……」

「奥だと……!?」

「そ、そうよ……。この地下坑道の奥には、まだまだ〝宇宙〟が山ほど眠っている……。そして、それを管理するコンピューターも……」


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