虹色の人類㊼
「と言うわけで覚悟してもらうわ、ショウタロウ・ハザマ……。後生だから、いっそのこと一瞬で地獄へと突き落としてあげる!」
エナ――つまり、烈風七型の動作の全てを乗っ取ったエナ・リックバルトは言うや、即座に機体の背部からレールキャノンの砲台二門をせり出させ、その照準を正太郎に向けるや否や、
「これでやっと、あたしはあなたとグリゴリの呪縛から解かれることができるのよ」
とこれ見よがしに言い放った。
とにかくレールキャノンという武器は、言わずと知れた烈風七型高速機動試作機の最強の速さと破壊力を誇る。この百メートルにも満たない近距離で弾頭が放たれれば、いかに百戦錬磨の彼とて無事で済まされる筈もない。
しかし、
「エナ……、そんなこっちゃ、この俺は倒せないぜ」
なんと、当の正太郎は余裕の表情で仁王立ちである。
「なんですって!? ショウタロウ・ハザマ。あなた、この期に及んでこのあたしにブラフを咬ませて駆け引きをしようとでも言うの!?」
「そうじゃねえさ、エナ。今のはブラフなんかじゃねえ。いいか? そのレールキャノンという武器はな、余程の非常事態じゃあねえ限り、そこに乗るパイロットと烈太郎の相互承認がなきゃ撃てねえように出来てるって寸法なのさ。お前一人でどうにもなるものじゃねえ」
「なんですって?」
エナは素っ頓狂な声を上げる。
「悪りぃな、エナ。それは今の俺の言葉通りさ。その戦闘マシンは他のと比べて結構癖が強くてな。割合中身は今でも最新鋭の部類だとは思うんだが、肝心かなめの扱い易さと来れば今どきの戦闘マシンと違って酷く古臭くってかなわねえ。つまりだな、昨日今日そいつに乗ったばかりじゃ虫一匹殺すことなんか出来ねえように出来てんのさ」
正太郎が言うと、烈風七型の機体は鉄面皮にもかかわらず微かに動揺の色を醸し出す。
「な、何よ! そんなこと、あたしの力をもってプログラムを書き換える事なんか朝めし前よ!」
彼女は言うが、数十秒、一分、二分と経っても一向にエネルギー充填の兆しさえうかがえない。
「無理すんな、エナ。烈風七型のブラックボックスは伊達じゃねえ。あの桐野博士のこった。あんまり不用意に中枢部分にアクセスしようとすると、お前のプログラムに支障を来たすかもしれねえぜ?」
「ウグッ……!!」
どうやらその正太郎の言葉は的を射てたようだ。この雰囲気からすると、短時間のうちに彼女の意識プログラムは何らかのダメージを受けていたようである。それが証拠に、あれだけお喋りだったエナが一言も口をきこうとしない。
「あれまあ、なんと……。ホントに桐野博士の奴、そんな仕掛けを仕込んでいやがったんだな。あのおっさん、相変わらず暗い根っこもいいところだぜ」
そんな憎まれ口を叩きながら、彼はいきなりダッシュで烈風七型に向かって駆け寄った。そして烈風七型の機体の
「でいやぁっ!!」
と気合一閃! 瞬時にレーザーソードの出力を全開にし、後ろに佇んでいたフェイズウォーカー、クイーン・オウル一機の足の部分を叩き切るのであった。
するとその機体は隙を突かれた形でバランスを保てなくなり、斜めに崩れ落ちる様にその場に倒れ込む。
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