虹色の人類⑲


 正にこの事態は、大膳にとっての転機に他ならない。彼はこの後、治安部隊によって秘密裏に捕獲した自分自身の身柄を厳重に管理しつつ対面することにした。それは、自分自身が抱える心の闇の部分と第二者として話し合えるまたとない機会だと踏んだからだ。

 しかし、その行為こそが今後のこの世界をさらなる混乱に誘う禁断の体面になろうとは誰にも予測できなかった。


 

 一方その頃、エナ・リックバルトに再び命を救われた羽間正太郎は、

「エナ、また世話になっちまったな。この礼はいつかどこかで返させてもらう」

 そう言ってメンテナンス作業までしてもらいピカピカになった烈風七型のコックピットまでよじ登る。

「いいのよ、そんなこと。だって、あなたに迷惑をかけたのはこっちの方からなんだもの。いくらあたしの偽物がしでかしちゃったことだって、言うなればあたしの責任でもあるのよ」

「へへっ、そう言ってくれるのなら、俺も少しは胸のつかえが下りるってもんだぜ」

 彼は言いながら計器類のチェックをする。

「あら、そんなこと言ってるけど、無茶しちゃダメよ。一応の処置はしたのだけれど、あなたはまだ怪我が完治したわけじゃないんだから」

 エナが言葉を言い終えると、いきなり、

「そうだよ兄貴。エナちゃんの言う通りだ。オイラが見てないと、兄貴は本当に無茶ばっかりするんだから」

 突然コックピットモニターの電源が入り、烈太郎のアバターが立体で飛び出して来る。

「わっ! 何だよお前!! 何で急にこんな姿になって出て来やがるんだ!?」

 何とその姿は、烈風七型の機体をダウンサイジング化して模された烈太郎である。しかも今までは二次元モニターに映し出された感情を表すだけの簡素なフェイスアバターだっただけのものが一気にホログラム化され、しかも表情や仕草までもが感情豊かに表現されて宙に浮いている。

「何でって言ったって、兄貴。オイラ気が付いたらこうなってたんだもん、仕方ないじゃん」

「なんだと!?」

 正太郎は眉間にしわを寄せ、怪訝な表情で下を見る。すると、

「あたしがやったのよ」

 と、エナが口に手を当て、茶目っ気たっぷりに腹を抱えている。

「お、おい、エナ! 勝手に人のマシンを……!!」

「あら、いいじゃない。結構可愛いでしょ、小っちゃくなった烈太郎君。デザインは悪くないと思うんだけど」

「しかしな、エナ・リックバルト……」

 正太郎は、らしくない困惑した態度でエナの方に向き直ると、

「ええ、分かっているわ、ショウタロウ・ハザマ。あなたが言いたいのは、命を預ける自分の戦闘マシンに、勝手に手を加えられるのが気に入らなかったのでしょ? でも大丈夫よ。メンテナンス意外に勝手に弄ったのはそこだけだから。だって、烈風七型というマシンの中枢部分は、かなり堅固な状態でブラックボックス化されているんだもの。あたしたちがいくら興味をもったところで、そこだけは手を付けられないようになっていたわ」

「……なってたって。そりゃつまり、最初っから手を付けようとしてたってことじゃねえか。お前なあ」

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