虹色の人類⑯

「なんだと!? この私が!? 今度の複製人類の姿はこの私なのか!?」

 大膳は、脳内の中だけのやり取りであるにもかかわらず、つい本体でも大声を上げてしまった。

「大臣。無論、治安部隊も警官隊も、その首謀者の外観が大臣の物であっても、正体が〝IM《イム》〟であることは確認済みです。なぜなら対象は少なくともAIカウンターを装着しておりません。しかし、対象が執政大臣を複製した生物であるだけに、部隊はその対処に手間取っている事態でありまして……」

 IM《イム》とは、インダースト・メン。つまり、虹色の人類を指し示す専用コードネームである。

「ふむ、相分かった。その対処の許諾は、今ここで私が承認しよう。私に似せた複製人類など、煮るなり焼くなりどうにでもしてくれたまえ」

「承知いたしました。関係各所にはそのように通達しておきます。なるべく穏便で適切な対処を取り計らうように申し送りしておきます」

「……ふむ、よろしく頼む」

「では、大臣。この件に関しては後程……」

 そこで秘書官との回線は途切れた。

 大膳はそこですかさず政府専用の三次元ネットワークデータ共有スペースにアクセスし、その模様のデータをアップロードされた感覚ネットワークスタイルというカテゴリーで選択した。

 この感覚ネットワークスタイルとは、アップロードされた共有データをそれをアップロードした第一者視点で全ての感覚をリアルに体感できる手段の一つである。状況をより詳しく知るには、口頭で伝達されるよりも、こうして誰かが体感したものを直接全身で感じる方がより効率的なのである。何よりこれを直接体感することで、当事者たちの表情や仕草、声色などの機微を確認しやすいという利点がある。

 大膳は、今より数十分前に起きた暴動のタグを見つけ出し、そのデータに即座に入り込んだ。

 このデータのアップロード主は、どうやら治安部隊の情報部員らしい。それが証拠に、声や視線、そして匂いや周囲の雰囲気までも出来るだけ克明に状況が受け手側に分かるように知見されている。正に状況把握のプロフェッショナルから捉えた視点である。

 その共有データには、ざっと数えて百数十人という一般市民が、鉄パイプや火炎瓶などと言ったどこからでも手に入るような武器を両手に、王制塔の地下に通じる入り口目掛けて押し寄せている光景が映し出されている。そしてその暴動者たちは、それを阻止しようとする治安維持部隊や警官隊などの制止を物ともせず束になって押し込もうとしている。

「ううむ、思ったより大きな暴動ではないか。百聞は一見に如かずと言うが、自分の目で確認せねば分からんものだな」

 大膳は、アップロードされたデータにより第一者の視点で観察を続けながらも、その暴動の奥で指示を出しつつ民衆を煽り立てる人物がいることに気付いた。そしてその人物に視点がクローズアップされた時、大膳の身体は地鳴りでも響きまくったかのようにビクンと揺さぶられたのだ。

「た、確かに……、確かにあれは私だ。私自身の姿だ……」



 

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