虹色の人類⑬
女王マリダとて、その結果は気になるところであった。
マリダが、どんなに他のアンドロイドと比べて優秀な人工知能ユニットを搭載していると言っても、さすがに未知なる脅威のデータが無ければ解析不能なのである。言わば、彼女の存在は人々が考えるような神に近い存在なのではなく、人の理想が創り出した至高の機械生命体に過ぎないのだ。
そんな彼女もそれを良く理解していた。それゆえに今回の騒動のデータに多大なる興味が湧いてくるのだ。
「ご安心ください、陛下。今回この街に紛れ込んだ虹色の人類は、我らの包囲網を奇しくもすり抜けたとは言え、目だった害悪には及びませんでした。これも、陛下の日頃からの国民に対する愛情と献身ゆえの賜物でありましょう」
「そう……そうですか。それは何よりです。しかし、これはわたくし一人による実績では御座いません。何より、この国の方々と、それを陰から支える大膳様たちのお力添えによるものと、わたくしは考えております」
「なんと有難きお言葉。このお言葉、そっくり国民にお伝え申し上げましょう」
大膳は分かっていた。本当に頂点にいる存在が清らかなれば、それだけ心の闇を抱える存在の数が増えぬということを。
しかし、このままこの問題がただでは済まないことも良く理解している。今回は、たまたま虹色の人類に複製された人物が、深い心の闇を持っていなかっただけの話なのだ。彼らは、彼らが思い描く健全なる国家を運営する事によって、その心の闇の確率を極力減らそうとしている。言わば、彼らの思い描く自己満足の一時しのぎに過ぎないのだ。
何と言ってもこの問題は、人が欲というものを持ち続けている限り避けて通ることが出来ない事象である。
だからと言って人間から欲を無くせば、人類が古来より夢見てきた理想的な好循環の繁栄すら望まなくなることは必至。また、人類を欲のない機械人形と同じように過剰なヒューマンチューニング手術を施せば、それはもう〝人類〟とは言い難い存在になってしまう。つまり、それは、〝虹色の人類〟という卑劣極まりない兵器を仕掛けてきた存在の思う壺になってしまうのだ。
「大膳様。わたくしは今し方、この一件に関する事象にとても興味を抱きました。それも、あなた方の仰る欲というものと同じであると考えます。そして僭越ながら、わたくしはあなた方人類をとても愛おしくてなりません。それも、あなた方人類の持っている欲の一種であると考えます。つまり、わたくしのような機械人形であろうとも、少なからず欲というものを消すことは出来ないということです」
「御意に御座ります、陛下。その件に関しましては、この大膳めも重々承知しております。それゆえに、今後の対策もより一層深く練り続けて行かなければなりません」
「はい。お頼み申します。大膳様。何卒、大膳様を含め、国民の方々にとっての全ての配慮を忘れることなきよう……」
「ハハッ、仰せの通りに」
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