緑色の⑳

 余りの衝撃に、クリスティーナは返す言葉を失った。そして横に居た小紋も同様に黙り込み、しかめっ面で口を尖らせている。

「君たちは、あの機械神【ダーナフロイズン】がまやかしであったことを知っているな? 君たちが新国家ペルゼデール・ネイションに籍を置く国民なら、当然誰しもが知らされていることであろう?」

「え、ええ……。でも、それとこれとがどう繋がっているというの?」

 クリスティーナが、物憂げな口調で問うと、

「うむ。一言で発するのなら、我々の間で伝わる始祖ペルゼデール様という存在は、何も全知全能の神などではない。ただ、我々のような知的生命体という存在を、何度もこの宇宙全体に造り出している技術者のような存在なのだ。その始祖ペルゼデール様は、競っておられるのだよ。他の技術者とね。その自分の創り出した人類の有能性とやらを……」

 クリスティーナも小紋も絶句した。つまり彼の言わんとしていることは、我々人類の存在の意味とは、始祖と呼ばれる存在の顕示行動か誇示活動の範囲内でしかないという話なのだ。

 小紋はそれを聞いて幼き頃を思い出した。彼女が地方に住む親せきの家に泊まりに行ったとき、従兄弟いとこのお兄さんたちがカブトムシを捕まえて、木の切り株の上で相撲のようなものをさせて遊んでいたことがある。彼らのその行為は、純粋にそれが自己を顕示するための手段の一つだった。

 デュバラが目の前で放った言葉の意味を解すれば、始祖と呼ばれる存在の目的とは、その程度の意味合いにしかないということなのだ。

 確かにこれでは世間一般に知らしめられる内容でなはい。この事実が本当なら、我々人類にとって余りにも陳腐で、余りにも絶望的な内容だからである。

 我々人類の存在意義が、もしそのような位置づけの物でしかないのなら、これまで社会的な善悪などの大方の価値観は無意味にもなり兼ねない。なにせ、我々は他の人類との力比べの道具でしかないのだから。当然つまり、それによって社会秩序の崩壊を招く恐れすらあるわけだ。

 小紋が、次の言葉を見つけられないまま声を詰まらせていると、

「ねえデュバラさん! そんな馬鹿げた話を私たちに信じろとでもいうの!? そうよ、あなただってこんな話を聞かされて平気でいられるなんて可笑しいわ! だって、もし仮に本当にあなたの話が真実だとしたら、私たちは下等な生き物扱いなのよ? いえ、もしかすると、私たちはそれ以下のバクテリアレベルの扱いかもしれないわ!」

  

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