緑色の⑯
デュバラは、小紋と対面するとさらに驚きの表情を隠せないでいた。
遠目でこそ、その小さき姿を窺っていたが、これほどまでに小柄で可愛らしい顔をした女性が相手だとは思いもよらなかったのだ。なにせ、彼らにとって彼女は百年に一人いるかいないかと言われる程の才覚の持ち主なのだから。
さらに彼らは、二度も彼女に煮え湯を飲まされている。いくら〝珠玉の繭玉〟をもって進化を遂げていたとしても、彼女を完全に葬り去ることが出来たかどうかは怪しいところだ。
その反面、当然小紋の方も非常に表情を強張らせていた。なにせ、あの渋谷での一件もそうだが、つい今しがたの従業員である加藤女史をチャクラムの一刀のもとに首を切断したのは、どうやら目の前の男の仕業であるらしいのだ。
この男の刺客としての腕前は相当の物である。それだけに危険極まりない事実が目の前に飄飄と姿を現したのだ。普段から底抜けに明るい性格の小紋であるが、こんな時はどう相手と接したら良いのか判断が付かない。
彼女の思い人である羽間正太郎も、言うなれば平和な日常からすればかなりの危険人物である。がしかし、先程まで本気になって自分を付け狙っていた暗殺者という存在は、兎にも角にも格別に危険な香りしか匂って来ない。
小紋が珍しく眉間にしわを寄せ、困った表情で下を向いていると、
「少々訪ねたいのだが、お前があの〝三心映操の法術〟使いなのか……?」
デュバラは、バツの悪い言い様で問うて来た。とても暗殺者とは思えぬ妙なたどたどしさである。
「え? ええ? さんしん……、えい……何ですって?」
小紋は初めて聞く言葉に戸惑った。全く言葉のイメージがつかないのだ。
さらに小紋にも緊張があった。今の今まで本気で命を狙われていた刺客に面と向かって問い質されるなど、どう考えても常軌を逸している。まるでびっくりイベントをした後の反省会で交わす内容のようだ。
「さ、三心映操の方術だ。お前たち日本人の言葉で言い表すのなら、我々はそう表現する。これは我々の組織に
「そ、そんな、奇跡だとかイニシエだとかいきなり聞かれたって困ります。だって僕には何も分からないもの。それに、実際に僕はそんな術なんて使った覚えが全くないんだもの」
「な、なんと!? や、やはりそうなのか……。アフワン様の仰っていたとおりだ! ……して、鳴子沢小紋とやら。なるほどお前は、その力を備え持って生まれ出てきた術者とうわけなのだな」
「ごめんなさい、デュバラさん。僕にはさっきからあなたの言っていることの意味がさっぱり分かりません。逆に聞きたいのはこちらの方です。この僕が一体何をしたっていうんですか? なぜ僕を付け狙ったりなんかしたんですか? 今すぐ答えて!! そうじゃなきゃ、加藤さんだってあんな目に遭うことはなかったんだから!!」
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