青い世界の赤い㊵


「フフ……、それはこういう事よ!!」

 そう言った瞬間、クリスティーナは走りながら唐突にしゃがみ込んだ。すると、いきなり彼女らの背後から、あの黄金色に光るチャクラムが突き抜けるが如く襲い迫って来た。

 小紋はその刹那、

「あっ……!!」

 と、思う前に体が勝手に反応し、上体をクルリと捻らせてそれをかわしたのだ。いや、かわせた……とでも言えばいいのか、かわしてもらったとでも言えばいいのか、とにかく理由は解からないが、彼女は飛んできた物を見もせずに簡単にけてしまったのだ。

「ね? お分かりになったかしら?」

 クリスティーナは、全く訳の分からないことを言う。彼女は、しゃがみ込んだ体をいつの間にか元に戻していた。そして、非常階段の入り口を見つけるや否や、小紋の腕を引っ張って、その扉の中へと引きずり込んだ。

「あ、あの……、クリスティーナさん。今のは何だったんですか? 僕には全然意味が分からなかったんですけど……」

 自分で途轍もない芸当をやってのけておきながら、腑に落ちない表情の小紋。

「だから、ああいったことが出来るのが、レセプター体質なのですよ。簡単に言ってしまえば、感受性特異体質って感じかしら」

「感受性特異体質?」

「そうです。私たち人類は、何かと個人個人に注目が行きがちだけれど、元々は集団としての存在に意味があると言われているの。でも、いつの時代からか、特定の個人的価値観を重視するようになってからは、そういった考え方自体が表舞台から消えて行ってしまったわ」

「で、それと今の僕の動きと、何か関係があるんですか?」

「あるある、大ありですよ、小紋さん! だって貴女は……」

 クリスティーナが言葉を発した途端、また黄金のチャクラムが音を立てて襲い掛かって来た。今度は、非常階段口の重くて分厚い防火鉄扉すら余裕で切り裂いて、四角い豆腐を真っ二つにでもするかのように突き抜けてきた。

 小紋もクリスティーナもそれをいち早く察知し、二手に分かれてダイブする。すると、チャクラムはまた、まるでリモートコントロールでもされているかの如く、鉄扉の裂けた穴をすり抜けて元の方向へと戻って行く。

「な、なんて使い手なのかしら、あの刺客……。ねえ小紋さん。あの武器相手じゃ、ここも安全とは言えません。さあ急いで下へ降りましょう」

「はい!!」


 

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