青い世界の赤い㊴


 無論、これは彼らの浅慮な早合点に過ぎない。だが、人間というものは、どこか余裕のない心理状態であればあるほど不都合な憶測を考えてしまいがちになり易い。まさに、デュバラやクハドの今の状態がそれをそのまま表していた。

「デュバラさん! この一件は、早急にアヴェル様やアフワン様に報告せねばなりません」

「うむ、そうだな……。ならば、その報告はクハド、お前に託す」

「えっ!? では、デュバラさんは?」

「決まっているだろう。俺は引き続きあの二人を追い詰める」

「なんですって!?」

「何を驚くことがあるのだ、クハド。俺は、先日のあの一件であの娘を闇に葬ると決めたのだ。これは組織の意思であるとか使命であるとか以前の問題だ。俺はあの時、俺が俺であるという根源的な部分を微塵に粉砕された。俺があの小娘を闇に葬ることが出来なければ、もう俺は俺として生きている意味などありはせんのだ」

「デュバラさん……」

「許せよ、クハド。今、俺が言っていることが、集団として生きる者の、そして、黄金の円月輪の一員として道をたがえていることは承知の上だ。しかし、この俺があのような若い娘にコケにされたままでいたのでは、我々第七世代の人類の沽券にかかわる」

 デュバラはそう言って、黒いベールをかぶり直した。彼の眼力がいつも以上に爛々と輝き、まるで糧に餓えた豹のように野性味を増している。

 クハドは、その迫力に気圧けおされた。たかが、あんな小さな娘一人であるにもかかわらず、デュバラ同士は今や一人の野獣と化した。

「デュバラさん、御武運を……」

おう!!」

 デュバラは、ズシリと響くような声で応えた。クハドは、その先輩同士の背中が視界から消えたことを確認して、この場を去った。



「大丈夫ですか、クリスティーナさん?」

 脇腹の出血が収まらぬクリスティーナ。何とか追手を振り切るためには、この建物から脱出しなければならない。無論、このホテルのシステムは、完全にあの二人の刺客に乗っ取られている。警備用のアンドロイドも、非常回線も状態にされ、従業員たちは彼らの幻術によって正気を失っている。

 これは、デュバラ・デフーという一人の男の意地を賭けた狩りそのものであった。本来ならそれ以外に何の意味もない。だが、その行為に無理にでも意味を持たせて、自分の意地を通し切りたい執念が彼の本能を呼び覚ましたのだ。

 その本気の殺意に反応して、小紋の腕の鳥肌が一向に収まろうとしない。クリスティーナは、そんな彼女の腕を見るや、

「やはり、マリダ様の仰ってた通りね。貴女あなたは、稀に見る〝レセプター体質〟なようですね」

 まだ彼女は少しだけ苦悶の表情を浮かべていた。

 小紋は、廊下を駆けながらそんな細かい部分まで見逃さないクリスティーナを、

(やっぱりこの人も只者じゃないんだ……)

 と感じた。言葉通り特別秘書官という肩書は伊達ではない。

「レセプター体質って、どういうことですか?」

 

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