青い世界の赤い㉞

 

 さらに彼女は、荷物で頭を覆うように入り口ドアへと突進した。その瞬間である。一筋の黄金色の閃光が、彼女の背中目掛けて飛び込んで来た!

「ひゃっ!!」

 まさに間一髪。が、厚みのない壁をぶち破って来たのだ。かと思うと、物凄い勢いでターンして隣の部屋へと戻って行く。そしてまた更に、

「わあぁぁっ!!」

 彼女は悲鳴のような雄叫びを上げながら倒れ込んだところを、重苦しい風切り音が頭の上を通り過ぎて行った。とうとう、の刺客たちは、本気でその恐ろしい牙を剥き出しにしてきたのだ!

 無論、彼女がけたたましい声を上げ続けているわけは、刺客たちの感覚を少しでも混乱させるためである。だが、彼らの攻撃には目を見張るものがあった。どんなに小紋が大声を上げ続けたとしても、彼女の動き自体がある程度まで特定されてしまっている。しかし、やらないよりは遙かにマシである。きっと声を上げ続けていなければ、彼女の身体は今頃きれいに真っ二つである。

(ああ、お気に入りのヘアバンドが……)

 けた瞬間、彼女の後頭部で結わえた長い髪がはだけてしまった。言葉通り、紙一重でが彼女の真っ赤なヘアバンドだけをかすめて行ったのだ。

 さらにが両隣りの部屋から引っ切り無しに飛んでくる。彼女は、何とか寸でのことろでそれをかわすのだが、ドアの前までたどり着くと部屋は滅茶苦茶になり、壁紙やらコンクリートの粉塵やらで全く視界が効かない状態になっていた。

 もう死に物狂いだった。全身は粉塵で真っ白になり、息をするのも精一杯。目を開くと涙がボロボロをこぼれて、このまま瓦礫やゴミの山に埋もれて野垂死んでしまった方がいくらかマシに思えた。

 それでも彼女は諦めずにドアまでたどり着く。そして手探りで鍵の位置を探し当て、慌てながらロックを解除した。

「加藤さん!! 聞こえてますか!? 今から一、二の三でこのドアを開けるから、そこをけて下さいね!!」

 小紋は、廊下に勢いよく飛び出ようと思い、ぶち当たってはいかぬと女性従業員を気遣って声を掛けた。そしてが通り過ぎるタイミングを見計らって、

「女も度胸!!!」

 とばかりに扉を押し開いた。



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