青い世界の赤い㉜


 小紋はとり急いで荷物をまとめた。つい先ほどまで、あらゆる機関にハッキングを仕掛けていた形跡を消し、至るところに小さなマスコット人形を置いた。

(これが、先日と同じ人たちなら……)

 小紋の勘が正しければ、彼らはこちら側がドアを開ける前にを放ってくるはずだ。

 ただ、彼らが何も言わずいきなり攻撃を仕掛けて来なかったのは、以前のしくじりによって、石橋を叩く作戦に変えてきたのだろう。相手もプロだ。経緯はどうであれ、確実に結果を残したい筈だ。彼女はゴクリと唾を飲み込む。

 再び呼び鈴が鳴った。

 慌ただしい催促である。とは言え、さすがに不自然なほど相手を待たしている。当然と言えば当然の事だろう。

 だが、それもこちらの作戦のうち。今さら気付いていないふりをしたところで、何のメリットにもならない。それならば、相手側の攻撃をどっしりと待ち構えていた方が断然得策というものだ。

 もし、この刺客が、先日と同じタイプなのだとしたら、ただ部屋に隠れていたとしても、壁ごと一刀両断にされてしまうのは間違いないだろう。そして、もし自分が、そのような刺客だとすれば、

(比較的、壁厚の薄い両隣りの部屋から仕掛けてくる……)

 彼女はそう思うや、小型マイクのスイッチを入れた。確かに、この状況で焦らない人間などいない。さすがに今回は小紋の心臓もバクバクと音を立てている。

 しかし、これが彼女の思い通りなら、今頃は相手の方が慌てふためいていることだろう。

 小紋のその狙いは当たった。急に彼女の腕の鳥肌が収まりかけてきた。これは、相手方の殺気が一旦消えかけている証拠だ。

 彼女は、医療用の小型聴診マイクを自分の胸の辺りに据え付け、そこから伝わった心音を、マスコット人形に備え付けたスピーカーで出力していたのだ。

 なんと彼女は、先日殺そうとしてきた敵が、微細な音を頼りに狙いを定めてきたのだと読んでいたのだ。その防御策として、このような仕掛けを前準備しておいたのだ。

(でも、こんなんじゃ、ただの一時しのぎに過ぎないよね。居場所を特定されちゃったからには、何とかここから脱出しないと……)

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