青い世界の赤い㉘


 アフワンに正論を突かれた元老院のお歴々は、腹いせに殴りつけるような卑しい言葉を投げ返してきた。そしてさらに、

「もし、これ以上問題が膨れ上がるようであれば、アヴェル殿の進退も考えねばならぬ! いいか、心しておくがよい!!」

 そう言葉を残して彼らはこの場を去っていった。

「すまぬ、アフワン。本来なら私が言い含むべき言葉であったはずなのに……。まさか、あのような卑劣な言い様を浴びせさせてしまうことになろうとは……」

 アヴェル・アルサンダールは深々と頭を下げた。

 そんな主君の態度に恐縮したアフワン・セネグトルは、

「め、滅相も御座いません、アヴェル様! このような私めに頭をお下げになるなどと、勿体のう御座います! 私は生まれてこのかた、主君アルサンダール家に仕える執事の系統。これしきのなじりなど、アヴェル様の御為おんためなら息をするより当然の事だと心得ておりまする」

「むう……しかしな。あの老人たちのへそ曲がりにも困ったものよ。いくら親父殿の息の掛かった精鋭部隊の名残りとは言え、いつまでも口を出されては……」

「はい、アヴェル様の仰る通りでございます。生前、先代ゲネック様が大変危惧しておられた事象も、その一言に尽きるのです。ゲネック様は、こんなことも仰られておりました。――この私が土に還ったのち、ゆくゆくはこの組織も土に帰す時が来るやも知れぬ――と」

「親父殿が、そのようなことを――!?」

 それは、アヴェルにはいささかきつい言葉だった。

 確かに、アフワンが伝えたかった意味合いとは、今先程まで傲慢の限りを尽くした元老院を気取る老人たちの暴走を揶揄したものだった。

 だが、アヴェルには、その真の意味合いが痛いほど伝わって来た。

(親父殿は、かようにまで羽間正太郎に期待を込めていたというのか……)

 これは、彼の中にある劣等感に火を入れてしまうに十分な主旨が含まれている。

(しかし、私には、ヤツのような〝三心映操の法術〟を会得するまでの器量さえ有しておらぬ……)

 アヴェル・アルサンダールの劣等感の出どころは、何と言ってもその一言に尽きる。彼に、三心映操の法術を極める才覚さえ宿っていたならば、彼の父であるゲネック・アルサンダールは、羽間正太郎という見ず知らずの男を愛弟子とすることも無ければ、当然、羽間正太郎という男の才能の開花も望まれていなかったであろう。

 世間一般から見れば、アヴェル・アルサンダールという男は、特段に秀でた器量の持ち主である。しかし、それだけでは、実の父親たるゲネックの期待を一心にまとえなかったのだ。

 そして、先日の一件――。


 

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