青い世界の赤い④
小紋は、全てこそは語れないが、姉の風華に有り体に告げると、
「もう、小紋ちゃんたら。本当に誰に似ちゃったのかしら?」
と、呆れ顔で延々と小言を語られてしまった。無論、小紋はこれが姉の愛情の表れであることは言わずもがな心得ている。
何せこの姉の風華にとっては、小紋はまだまだ年の離れた四兄妹の末っ子のままなのである。本来なら、このまま籠の中でその行く末を
早いうちに母親が他界した鳴子沢家では、四兄妹の二番目として生まれた風華が小紋にとっての母親代わりの存在だった。
一番目の兄
そして、小紋と三つ違いで生まれた三番目の兄妹の
「ちょっとこの目で世界の何たるかを見て来たい」
と言い残してどこかに旅立ってしまったのだ。彼はそれ以来、一つも連絡もよこさず、一度も家族に姿を見せていない。
そんな兄妹の中でも格別に大切に育てられた末っ子の小紋であったが、思い込んだら手の付けられない所など、父大膳や三番目の春馬にも匹敵するほどの情熱を秘めていた。
「ねえ、小紋ちゃん。あなた、お父様のこと、どう思っているの? そして、あの羽間さんとか言う人に会って何をしたいの?」
「何をどうしたいかって? そりゃまあ……お姉ちゃん、僕だって色々と……」
「ふうん……そうなんだ。もう、あなたも人並みに女の子のままじゃいられないってことなのね。いいわ、それならわたしも納得できる。だけど……あなたから聞いたお父様のお話、全てが本当のことだったとしたら、あなたはその羽間さんと一緒に、お父様を敵に回してしまうかもしれないのよ? その時はどうするとか考えているの?」
さすがに風華は姉である。小紋が考えるより先のことまで心配してくれている。
小紋は、父大膳が語った事柄を姉風華にだけは話していた。確かにこれは、政府関係者としてなら極秘事項扱いなのだろう。だが、今の小紋はただの一般人に過ぎない。しかも、内容が内容だけに、世間一般に知られたとしても一笑に付されることは間違いない。
ただ、小紋が地球に強制送還されてしまったことや、ヴェルデムンドへの次元渡航が封鎖されてしまった背景から、姉風華としても全てではないにしろ、小紋が語った内容を大まか信じざるを得ない。それゆえに、もし全てが真実であると想定した場合を考えると、小紋の行く末や、父大膳の安否が不安で仕方が無くなるのだ。
「小紋ちゃん、わたしね。一真兄さんが亡くなった時のことを思い出すと、今でも悲しくて仕方がなくなるのよ」
「お姉ちゃん……」
「わたしは、あなた達みたいにバンバンと広い外に出て活躍するような性格じゃないの。だから、いつもみんなの背中を見ていて胸が苦しくなっちゃうのよ。ううん……でも、そんなことを言ってしまったら、みんなが何も出来なくなっちゃうことも知ってる。現に、夫の廉也さんの仕事だって、いつ不測の事態が起きるか分かったものじゃないじゃない? でもそんな人を好きになっちゃったんだから、その覚悟は出来ているつもりだけど……、それでもやっぱり……」
姉は、そこで言葉を詰まらせた。
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