第十章【青い世界の赤い日】
青い世界の赤い①
その頃、地球では不思議な現象が起きていた。
昼間の空が、朝焼けや夕焼けのような赤やオレンジ色に染まるようになり、明け方や夕方になると青色に染まるという逆転現象が観測されたのだ。無論、その状態が起きれば、当然のごとく昼間の海の色も一時的に鮮やかな朱色に染まり果てたのは言うまでもない。
その現象は、わずか一日ばかりの観測を以ってまた今まで通り正常な状態に戻ったのだが、その一日を境にして今まで地球に観測されていなかった生物の姿が確認されるようになったのである。
その生物とは――
「本日未明、東京都渋谷区の繁華街に、突如として大型肉食系植物ヴェロン数体の群れが上空から現れ、少なくとも二百名が死傷するという大惨事が発生いたしました――」
小紋がパジャマ姿のまま一階のリビングに降りると、姉の
「お姉ちゃん、また何かあったの?」
小紋は、そんな風華の肩に寄り添うと、同じようにテレビ画面を食い入るように見つめた。
「あら、おはよう、今日はまたごゆっくりなお目覚めね、小紋ちゃん。そうなのよ、また
「そうらしいね。現場は渋谷だから、ここから結構距離はあるけど、ヴェロンの移動速度を考えればここも危ないなあ」
「あら、それは心配ないわよ。だってもう、厳戒態勢は解かれたみたいだもの。うちの人からもメールで連絡があったんだけれど、一応襲って来たヴェロンは全て排除したらしいわ」
「そ、そうなんだ。僕ちっとも気付かなかったよ」
「それはそうよ。小紋ちゃん、毎晩あなた遅くまで起きているんでしょ? 一応この辺りでも警報は鳴ったのよ」
「うっそー!? それはちょっとまずかったかな。これでも一応、前職は発明法取締局のエージェントだったんだけどなあ……」
鳴子沢小紋は、父大膳に強制的に元の地球に送還されて以来、姉の風華の嫁ぎ先である真宮寺邸に厄介になっていた。
風華の夫である
そんな廉也曰く、
「なにかと若い女性一人が、あの大きな鳴子沢邸に一人というのは心細いでしょうから。この真宮寺邸で妻と一緒にこの家を守ってやって頂けませんか? これこの通り、妻のお腹の中にも私たちの二人目も宿り始めたことだし、小紋さんにここにいてもらえれば色々な意味で心強い。私の仕事は、ご覧の通り大抵の日々を外で過ごさねばならないのでね。本当に勝手な申し出だとは思いますが、考えてみてもらえませんか……」
三十代も後半の筋骨たくましい男であるが、どこか理知的でどこか憎めない風貌である。そんな男が、二十歳そこそこの小紋に対し、しっかりと頭を下げて真剣な眼差しを送る。
小紋は勿論のこと、この真宮寺廉也の申し入れを断る理由などないのは、一緒にいた姉の風華も承知の上であった。そんな状況であっても、廉也はこういった言い方をして小紋に変な気負いを持たさない心配りをする男なのだ。
そんな廉也の態度を
(真宮寺さんは全然タイプこそ違うけれど、羽間さん同様、並みの
と、若い小紋ですら感心した程である。
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