黒い夏の18ページ

「早雲! 早雲! おい、どうした早雲!? 黙ってちゃわからないだろ? 何とか言ってくれ!」

 勇斗は必死に呼び掛けた。その声は、だだっ広い鍾乳洞の中を何度も何度も木霊こだまして帰って来る。しばらくして、

「あ、あの……、ユートさん、申し訳ありません……。この縛る物から脱出しようとしたら、突然、体じゅうにとんでもない衝撃が走ったもので……。こんなこと初めてです……」

 早雲は、苦悶に満ちた声で答えてきた。早雲が言うその衝撃たるや、さぞかし凄まじいものだったのだろう。それはいかにも言葉を発するのもやっとという感じで、喉の奥からうめくような息遣いさえ伝わって来る。

「早雲! あんまり無理するな! お前がそこまでしても大変だったら、止めた方が良い!」

「ええ、でも……」

「いいんだ。お前が無理なら俺がやる」

「ユートさん……」

 勇斗は、真っ暗闇で何も見えない状態であるにも関わらず、なぜか不安を感じなかった。それは無論、早雲の存在がそこにいると分かったからである。それ以上に、この状況を何とかしなければならないという意識が強く湧いてきたのだ。

 彼は、腕を後ろ手に縛られて、両足共々足首の辺りから膝がしらまで紐のようなものでがっちりと締め上げられている。それでも何とか、起き上がったり転がって移動するなりの多少の自由は利く。

 それならばと思い、勇斗は早雲の声がする方向へと擦り寄ってでも行くしかないと思ったのだ。

 これまでに、何度も言い合いをしたり、上から目線の強い物言いに機嫌を悪くしたりといざこざもあったが、同じ戦場、同じ戦闘訓練を受けて――いい方は言い得て妙であるが――同じ釜の飯を食って来た無二の相棒である早雲の様子がおかしいともなれば、ここで一念発起して助けに行くのが男というものだろう。

 まして、自分のわがままに付き合わせてしまっているから、この状況に陥っているのだ。これで奮い立たなければ、人間としてどうかと思う。勇斗は思いつつ、奥歯を噛み締めて体を揺すった。

「うわぁっ!!」

 その瞬間、いきなり地の底に吸いこまれるような感覚と共に、全身が硬い岩盤の地面に叩きつけられた。どうやら高低差のある台の上から転げ落ちてしまったらしい。その落ち込んだ場所は、鍾乳石が堆積した凸凹の場所であったがために、辺りどころが悪く途轍もない痛みが彼の体じゅうを襲った。

「あ、痛つつつつ……!」

「ユ、ユートさん! ユートさん! 大丈夫ですか!?」

 勇斗の異変に一早く気づいた早雲が声を掛ける。だが、彼はしばらく言葉を返せない。

 

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