夏の黒い15ページ
案の定、アルフレッド博士は勝手な解釈をしつつ、すごい剣幕で言葉を叩きつけてきた。勇斗は、この身勝手な老博士に腹立たしさを覚えたが、もう何を言っても聞く耳を持っていないことなど先刻承知だ。何せ、老博士の相貌は、いかにも皮膚の崩壊が顕著であり、今にも血流がどっと噴出しそうな勢いである。手や足の継ぎ目の辺りはグラグラと歯ぎしりのような不快な音を立てて、肉体の制御バランスが一定していない。こんな相手に対し、まともな言葉で通じ合おうとするだけ時間の無駄である。
勇斗は更なる危機感を覚え、咄嗟に携行レーザー銃を構えた。今度こそは焦らずに、セシルに教わった通り安全装置を確実に解除し、目の前のとち狂った老博士を威嚇しなければならない。
「博士! アルフレッド博士!! これ以上おかしなことをすると撃ちますよ!」
至近距離であったが、携行レーザー銃を撃つには十分な距離であった。携行レーザー銃は、あまりに対象物が近いと、跳ね返った熱線によって、こちら側にもダメージを受けてしまい兼ねない。まだまだ発展途上な武器だけに、様々な配慮を以って使用しなければならない。だが、
「うっふっふ、うっふっふ。お主もそうやって、この
老博士は言うや、壁に設置されていた装置のレバーを引いた。すると、数十個はあろうかという水槽が一斉に開いて、コバルトブル―に光る溶液がどっと流れ出した。そしてなんと、その中で
「う、うわあぁぁぁぁー!!」
人間の頭部を一切持たないそれらの実験体は、それぞれが全く出鱈目な動きをしながら勇斗の持っている小型サーチライトの光に反応し、蟻が砂糖に群がるように集まって来る。胴体に、五本の腕が生えただけの物は、カマドウマのようにぴょんぴょん飛び跳ねて。足が三本に腕が四本で連結された物は、ヤスデの如くしゃかしゃかと小刻みに這いつくばるように。そして、女性の胴体に腕が六本連結された物は、大きな乳房を揺らしつつ、仰向けのままグルグルと弧を描くように近寄って来る。
あまりにも人間の所業とは思えない光景に勇斗は悪心を覚え、ついには思わず奇声を上げ、目の前が真っ白になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます