野望の109

 正太郎は気合十分だった。烈太郎は、彼の指示通り、出力を全開にして岩場を離れた。正太郎が言ったように、どうせ体じゅうがベムルの実によって汚染されまくっているのなら、どんなにヴェロンの死角に隠れたとしても意味がない。それならば、こちらから攻めに転じた方が断然有利に事を運べるというのが彼らの考えだ。だが、

「兄貴! 二時の方向、仰角45度の辺りから第一陣が突っ込んでくるヨ! 驚かないで!」

「何を?」

「だってあいつら、鶴翼の陣系を保ったまま二十体ほどで一遍に突っ込んで来るんだもの!」

「な、なんだと!?」

 敵もさるものである。以前は知能を持たなかった肉食系植物でも、今現在は全く状況が違う。それは怪鳥が巨大な翼を広げたかのような陣形で、彼らの位置にその巨体ごと突っ込んで来ようというのである。

「クソったれ! そう来たか。ならば、烈! あれを使うぞ!」

「あれ?」

「おい、烈! あれっつったら、テメェの十八番、レールキャノンに決まってんじゃねえか!」

「そ、そうか! レールキャノンか。アイアイサーだよ、兄貴!」

「どうだ、間に合うか!?」

「う、うん。何とかギリギリ……」

 烈太郎は、正太郎の承認のもとに肩口に収納されたレールキャノンの砲台をせり出させた。レールキャノンは非常に強力な武器であるため、特別な場合を除いて搭乗者の許可なくして撃つことは出来ない。

 特別な場合とは、搭乗者の危機、そして自らの危機に際してのみ有効とされる。過去に、烈太郎がジェリー・アトキンスに執拗に追い回され、破壊を企てられた時がそのケースに当たる。

 レールキャノンと言えば、烈太郎の記憶回路の中にはジェリー・アトキンスと対峙した件や、アイシャ・アルサンダールとの哀しい思い出がつい呼び起されてしまう。

 しかし、何と言ってもこの場合は、無二の相棒である羽間正太郎の命を守るという使命が優先される。それは、烈太郎の開発者であり父親でもある桐野博士の言いつけでもある。

「兄貴、発射準備オッケーだよ。いつでも大丈夫だ!」

「おう! 弾丸の種類はチェックしたか?」

「うん。この場合は、広範囲にダメージを与えられる拡散弾頭でいいんだよね?」

「ああ、上出来だ、烈。それならば、エネルギー充填!」

「エネルギー充填!」

「今回はカウントダウンは無しだ! 狙いは陣形の中心部!」

「狙いは陣形の中心部!」

「発射!!」

「発射!!」

  

 

 

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