野望の107
今回の正太郎に明確な秘策などない。ただああるのは、グリゴリが醸し出す闘争本能に全力で応えようとする意地だけだ。
彼はまだ、グリゴリが自己に目覚めたという確証を目の当たりにしたわけではない。だが、どういうわけかグリゴリが自らを闘争に呼び込んでいる事だけが明確に伝わってくるというのだ。
機械である烈太郎は、その意味が分からずに純粋に正太郎に問うてみた。
「ねえ兄貴? 人間て、そういうのが言葉やネットワークも介さずに解かり合えるものなの?」
「ん? さあな。そんなことは俺にもよく解からねえ。だがよ、ムキになってやり合おうっていう意気込みみてえな感じだけは、ほら、実際に伝わって来るじゃねえか」
正太郎は、眼前に広がる砲撃の跡を指差した。
「うーん、そういうものなんだね。でもさあ、そう言えば、ちょっと前に兄貴はエナちゃんのことを難しい顔して死んでいるとか仄めかしていたけど、あれってなあに?」
すると正太郎は、少し渋い表情になりながら、
「あ、あれか……。そりゃあ、テメェだってとっくに気づいていると思っていたんだがな」
「え、どういうこと?」
「ほら、アイツが……あの荒くれ共を顎で束ねていた可愛らしい女の子が、本物のエナじゃねえってことぐらいな……」
「えっ!?」
烈太郎は衝撃を隠せなかった。この目の前の無二の相方が、途方もないぐらい頭の回転の切れる男だと分かっていても、
「あ、兄貴! いくらなんだってそれは無いよ! あれがエナちゃんじゃなかったら、一体誰だっていうの? ……ま、まさか!? あれは兄貴をも苦しめた、あの兵器の幻影だとでも!?」
烈太郎は声を張り上げずにはいられない。
「そんなわけあるかよ! もしあのエナが、悠里子の時のようにあの武器の幻影だったとしたら、一体誰がその幻影を呼び込むんだよ? あの武器は、死者の蘇りを心から望む者がいなければ成立しねえ。別にエナは本当に死んでいるわけじゃねえからな」
「あ、兄貴……。オイラ、本当にわけが分からない。てんでチンプンカンプンだよう!」
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