野望の96
「ねえ、兄貴は大型人工知能のおっちゃんがどこに消えたのか、もしかして見当ついてるんじゃないの?」
あっけらかんとした言い様で問うてくる烈太郎である。
「ふん、烈よ。テメェも言うようになったじゃねえか。まあ、本来はテメェみてえな人工知能の方が、こういった難問には向いている筈なんだがな。どうしても人間の複雑な心が絡んだりしちまうと、テメェらの機械頭じゃこんがらがっちまうってところか……」
大型人工知能グリゴリの消息は、杳として足取りがつかめないまま調査が終わった。地下に牙城を築いていた彼の本体たる機械施設には、まったくそのプログラムも意識も存在していなかった。ただあったのは、もう作動することのない抜け殻になった半導体だらけのスクラップのみ。
反乱軍主導の検証調査班がいくら電源を入れようとも、もうその牙城はうんともすんとも反応しない。正に鉄屑のスクラップの山が残っていただけなのだ。
両軍は、そのグリゴリの存在の危険性から特別チームを組み、調査に乗り出したのだがまるで足取りなどはつかめない。勿論、その疑いの矛先が向いたのは、意識を取り戻したエナ・リックバルトの存在である。
彼女はのちに、グリゴリの狂乱の後に退役し、第十三寄留ムスペルヘイムの学術専門院で教鞭を取る任に就くのだが、それまではグリゴリと関わっていたことから国家反逆罪の疑いを掛けられ、国家監視の下、二年五カ月の軟禁状態にあった。それは無論、グリゴリが何らかの接触を試みて来ることを想定してのことだ。
だが、結局それも空振りに終わった。得てして、エナ・リックバルトの疑いは晴れ、ヴェルデムンド新政府管轄であった第十三寄留ムスペルヘイム内で後進の指導に当たる任に就くことになったのだ。
「そのエナちゃんがピンチなんだ。早く行ってあげないと! ね? 兄貴」
烈太郎は、コックピット内のモニターにエナらが苦戦している戦闘状況を映し出すと、正太郎の意識を煽り立てた。だが、当の正太郎はどこか浮かない表情である。
「ねえ、どうしたの兄貴? 何か兄貴らしくないよ。こういった時に真っ先に加速するのが兄貴じゃないか」
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