野望の94
「あの時は本当に大変だったんだからね、兄貴。オイラ、兄貴が意識を失っちゃったときは、心臓が止まるかと思ったもの」
戦乱があったころの回想に
「なんでテメェみてえな戦闘マシンが、ビックリしたぐらいで心臓が止まるんだよ!」
「えへへ、ちょっと言ってみたかったんだ」
人工知能グリゴリの狂乱。そして、ゲッスンの谷攻略戦の思い出は羽間正太郎にとっても感慨深い出来事であった。
これはかなり意外なことであり、あまりにも偶然が引き寄せた結果論としか言いようがないのだが、正太郎が立てたあの作戦は彼が思い描いた内容通りとは行かなかった。だがしかし、図らずも作戦は成功に終わったのだ。つまり彼は、結局のところネイチャーとミックスたる人々の感情の架け橋を繋ぐことが出来たというわけなのだ。
それは正に偶然と必然の要因がたまたま重なり合ったまでのものであるものの、その結果が作戦成功に導かれたことは揺ぎ無い事実であることもまた確かな現実である。
そのたまたまの作戦成功の第一の要因として語られるのは、正太郎が老紳士たるグリゴリの幻影と対峙している際、共鳴スピーカーのスイッチを偶然にも入れたままにしていたことである。そしてその対峙していた会話の音声が、発電施設内で警備に当たっていた兵士や施設内職員たちに丸聞こえになっていたということだ。
あのアンドロイドの狂乱とも言える異常な行動にしてもそうだが、その会話の内容と事柄があまりにも一致しているだけに、警備兵らもこの目の前の凄惨な状況が大型人工知能グリゴリによる反乱であると認めざるを得なかったのだ。
無論その情報は、警備兵や職員たちの全ての人々がミックスという存在であるがために拡散速度も尋常ではない。
どこの、どういった場所で何のために何が起きているのか? だれが何を起こしているのか?
そう言った情報は三次元ネットワークに乗って映像のみならず感情や感触までが隅々までスピーディーに共有されてゆく。
そして最終的に決め手となったのは、正太郎が語ったこの言葉によってのものである。
「俺ァ、テメェたちの街を守るためにやって来て、守るべきテメェがこの街をぶっ壊しちまおうてんだからよ!」
彼らの長いやり取りの中で、そこでアンドロイドの軍団と命のやり取りの最中であった警備兵や職員たちの心を鷲掴みにしたのだ。この反乱軍の軍師たるヴェルデムンドの背骨折りの言い様には、全くの裏も表もなく、ただ純粋にこの不毛な戦いを止めにやって来たという意図がありありと伝わったというのだ。
彼ら警備兵たちは、その一部始終聞こえてくるやり取りを含め、今現在発電施設内で起きている凄惨な状況を全く隠すことなく拡散した。だから皆がこぞってその情報を知ろうとした。
その驚異的で衝撃的な内容の出来事を、ミックスのみならずネイチャーたる人々の興味を惹かないわけがない。その情報はまるで核分裂でも起こしたかのように、鼠算式に拡散し一瞬にして誰もが知る出来事となったのだ。アンナ・ヴィジットや羽間正太郎が思い描いたエクスブーストによる強制的な共有解除をしなくても、人々は結果的に互いの心を開いてその情報を知ろうとしたのだ。
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