野望の⑥
「神? 神って、あの神様のこと?」
「ああ、俺たち人類のどこかで必ず耳にする神様のことだよ」
これには人工知能の烈太郎も唖然とした。つまり、今、正太郎が語っている話が意味していることは言わば正に創世のシミュレーションということなのだ。
「じゃ、じゃあさ! お酒や味噌、ワインやチーズなんかも一つの世界だっていうことだよね?」
「ああ、規模は小さいがな。考えようによっては、それを造る者は、その世界を作る神を意味することになる。あの発明品を作り出した連中は、それに気づいちまった。だから、逆にあの発明品を封印せざるを得なくなっちまった」
「そうか、“熟成人間菌培養コロニアリズム”は、創世記のアダムとイヴを肯定するために作られた物だってのに、神羅万象を司る絶対神が、単なる味噌を造るだけの目的の職人さんだったとしたら、それは自分たちの考えを根本からひっくり返しちゃうようなものだものね。自分たちの神様は、ただのおいしいお味噌を作ろうとしているだけのおじちゃんやおばちゃんだったりしたらだとか……」
「へへっ、まあ、そんなところだ。でも、その話は日本で起きたわけじゃねえから、味噌ってことはねえだろうけどよ。そこはワインだとか洒落たもんで考えとこうぜ」
「そだね、兄貴」
彼らの話の通り、過去に“熟成人間菌培養コロニアリズム”を作成したアダムとイヴ説を推していた勢力の一派は、言わずもがなこの発明品を地下深くに封印してしまったのである。
羽間正太郎の様な、闇の世界と通じていたことがある武器商人の間では知る人ぞ知る事象であるのだが、さすがに公式のアーカイブや文献には記載されることはなかったために、一般的には知られていない。ゆえに、人工知能たる烈太郎の知識の及ぶところではないのが必定だ。
世の中には、こういった様々な理由から闇に紛れるように封印せざるを得ない品々が多数ある。そんな極秘の発明品が出回り戦略兵器として応用されてしまっていることが、正太郎に焦りを感じさせてしまうのだ。
「アヴェルはそれをやっちまった。誰からあの発明品の存在を知ったのか? そして、どうやって兵器に応用させちまったのか? そこがポイントの一つなんだが……」
「なんだが……って、まだ何かあるの?」
「ああ、さっき言ったみてえに、アヴェルの目的が今一つ解からねえ。一体、この兵器を使って何を仕出かそうとしているのかってことだよ」
戦争、もしくは戦乱を起こそうとするには、何か大義名分となる目的が必要になる。今回、アヴェル・アルサンダールの取った行動は、実に不可思議な部分がある。
それは、自国の有益性を考えての行動ならば、あの発明品を使って自国民を犠牲にしてしまうのはまるで筋違いな話である。
そして、自らの支配欲を満たすためだけならば、この発明品を使用せずとも、他国への脅しとして使用するのなら戦略的な意味を持つことになる。
にもかかわらず、彼はそれを自国民に使用してしまった。こんなあべこべな考え方があるものだろうか?
正太郎は、ゲネック・アルサンダールに教わった、
『あなたが世界を滅ぼしたいのなら――?』
を念頭に、アヴェルの戦略を検討してみたのだが、どうしてもその先行く向こう側が見えてこないで迷っていた。
そんな折、
「ねえ兄貴ぃ、目的の場所にもう少しで着くよ。ほら、生命反応がある地点の……」
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