野望の③

「分かったよう、兄貴。オイラもっと人間のことを沢山勉強するから、そんなに責めないでよう」

 正太郎のきつい言い様に、しょんぼりしてしまう烈太郎である。

 さすがの百戦錬磨の羽間正太郎とて、時には感情的にもなるし感傷的にもなる。そんな時は、どうしても彼の言葉は的を射ているだけに相手にとことんきつく聞こえてしまう。烈太郎は、まだ精神的に人間の子供のような人工知能である。それゆえに、どんよりと落ち込んでしまうのだ。

「悪かったよ、言い過ぎた。おい、烈。ホントお前は変な時だけ人間臭えのな。他の人工知能は、いちいち傷ついたりしねえんだがな」

「うん、いいよ兄貴。兄貴の言っていることが正しいのは、オイラも承知の上だもん。でもさ、オイラ、あんまり他の人工知能仲間がいないからよく解からないんだけど、他ってそんなものなの?」

「あ、ああ、まあな。あんまり褒めると図に乗るから言いたかねえが、お前をあの戦乱の途中で試作品だからと格安で譲ってもらった時は、さすがに驚いたもんだぜ。まるで人間の子供と話してるみてえだってな」

「こ、子供……ね。兄貴ぃ。それって、褒めてるの? それとも貶してるの?」

「ばーか。あれから五年以上経ってるが、どこからどう見たってテメェは子供じゃねえか。いいんだよ、子供は子供で。それだけまだ、伸びしろがあるってことじゃねえか。いちいち背伸びしてつっかかって来んじゃねえよ、めんどくせえ」

「じゃあさあ、マリダちゃんは、どうしてあんなに優秀で大人っぽいの?」 

 その質問をされると、さすがの正太郎でも返答に困る。

 当のマリダ・ミル・クラルインは、今や鳴子沢大膳らが画策した大国家、ペルゼデール・オークションの女王として君臨している。

 噂によれば、アンドロイドである彼女は、その優秀な知能とデータの融合を武器に見事な内政を取り計らっていると言われている。おまけにあの見事なほどの端正で美しい容姿である。民衆の心を一手に惹きつけるには最適な存在であることは間違いない。

 彼女の出どころは、一応名のある女性型アンドロイドメーカーによって製作されたとされているが、それ以外これといった情報は流布されていない。

 元々かなりのポテンシャルを狙って製作されたものなのか、それとも経験の蓄積などによって個体別に優秀に育ったものなのかは定かではない。ただ、当時の発明法取締局の長官だった鳴子沢大膳が、娘である鳴子沢小紋のために彼女を特命で当てがった事だけは確かである。

「不思議だねえ、マリダちゃんて。製作年代も明らかじゃないんでしょ? だけどドールであることは間違いないんだもんねえ。こんなこと言っちゃなんだけど、マリダちゃんて、人間で言うアイ姉ちゃんみたいなところがあるもんね」

「ああ、見た目が良いのは勿論だが、烈、お前と違ってマリダは人間の何たるかまでよく理解している。付き合い易いっちゃあ付き合い易いが、時々怖くなる時がある。もし仮にアイツと付き合ったりなんかした日にゃ、簡単に浮気もばれるってオチだな」

「そりゃ違うんじゃない、兄貴? きっとマリダちゃんなら、それは人間の本質的な行為なのだから仕方がないことなのです。とかぐらいのこと言っちゃうと思うね」

「ははっ、言えてんな、それ!」

 正太郎は言いつつ、首から下げたペンダントのトップを握りしめる。そのトップの中央に光る物とは、あのアイシャと悠里子の幻影が凝縮された真珠の様な塊である。

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