戦闘マシンの㉑


「やい、アヴェル! 俺ァ見ちまったんだ。恐らくテメェらが作り出したアレをよ。最前線で燃え盛る炎の中で、蠢いてしゃしゃり出て来ようとしているアレをよ」

 正太郎は、その光景を思い出すだけでゾッとする。あの燃え盛る巨木の中から今にも生れ落ち、しゃしゃり出て来ようとしているアレをだ。

「そうか、アレを見てしまったのだな、羽間正太郎。ならばもう、お前を一刻も生かしておくことは出来ん。冥途への土産にお前もアレのエサとなり、我々の目的の為に貢献するのだ。我らが“黄金の円月輪ゴールデンチャクラム”の為に!」

 アヴェル・アルサンダールは言うや、白い手袋をした右手を挙げた。するとまた、四方八方から不快な高周波が聞こえてくる。

 彼ら、黄金の円月輪の暗殺武器である黄金色のチャクラムは、鋭く磨き上げられた鋼鉄の輪に、空中を飛び交う際に人の感覚を狂わす笛の様な細工が施されている。人間の腕ぐらいの太さの鉄パイプですら真っ二つにしてしまうほどの切れ味を持っているだけに、感覚まで狂わされるともなれば、これこそ脅威に他ならない。

 しかし、正太郎とてここでむざむざやられるつもりはない。相手がアイシャの実の兄であろうとも、狂気に満ちた人間をこのまま放って置くつもりはない。これは、善悪の問題でもなければ人類の存亡の問題でもない。羽間正太郎として生を受けた個人の意地の問題なのだ。

 暗殺部隊は、彼の見立てではアヴェルを合わせて六人である。無論、アヴェルを中心としてこの部隊は機能している。

 その六人が各々のチャクラムを投げ合い、正太郎を囲み不協和音を奏でながら感覚を狂わそうとしている。確かにその攻撃はハッタリではないと断言できる。確実に彼は目まいを伴いながら凄まじい頭痛に苛まれている。その上、心なしか超人的な動体視力を持つ彼でさえ、チャクラムの動きを目で追うのが苦痛になるほど視界が狭まっている。

「羽間正太郎よ! お前が今日まで生きてこられたのは、その類稀なる能力を開花させた我が父のお陰である。その父が、実の我が子を無視してまで熱狂して教え込んだお前が、私は羨ましい。そしてかなり憎い。その憎い相手に可愛い妹の心を奪い取られた事実がさらに憎い。よって私は、お前をこの世から抹殺せしめんとする! 覚悟するのだ!」

 アヴェルの言葉に戸惑いが無かった。一切の迷いも無かった。昨夜の宴の席で見せた温かみすら感じさせなかった。ただあるのは、長い年月と共に蓄積された正太郎への恨み節だけであった。



 

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