戦闘マシンの⑫
この大地の巨木の森は、一見人類にとって神から授けられた自然の要塞のようにも感じられるが、実際には自らの視界さえ塞いでしまう奈落の底といった状態である。
凶獣ヴェロンは、人類よりも先にこの大地に根付いている強力な肉食系植物である。それだけに、巨木の森での優位性は無論ヴェロンにあった。
アイシャは、先日の防衛線での正太郎の仮説を思い出していた。肉食系植物らは知能まで進化しているのではないかということを。
彼女は、烈太郎に攻撃タイミングを任されたものの、一抹の不安を抱えていた。
(もしかすると、これは何かの予兆なのかもしれない……)
そう思いながらも、味方の防衛線戦が苦戦しているところを放って置くわけには行かなかった。
彼女らは巨木に視界を遮られ、敵の姿を直接確認できなかった。それゆえに、各所に設けられたレーダーサイトから送られてくるデータをレーダーモニターに投影されたものを確認するのみで判断しなければならない。
「先程の5キロ先の防衛ラインに、ヴェロンの群れらしきものがぞくぞくと集まって来ています」
「うん、オイラも確認してる。早く攻撃態勢に入らないと、防衛隊の人達の被害が酷くなっちゃう。アイ姉ちゃん、くれぐれも早くタイミングを見つけて」
「ええ、そのつもりなのですが、空からの見張りが激しくて、まだちょっと……」
ヴェロンは、集団で攻撃する群れと、偵察を主に担っている布陣に分かれて行動している。それを鑑みても、彼らが知能的な集団行動をしていることが窺えた。
「正太郎様の仰っていた通り、この大地の植物に何らかの手が加えられたという話は本当の事かもしれませんね」
「うん、言えてるね。だって、以前は集団で襲い掛かって来たと言っても、どわーって雪崩れ込むみたいな感じだったもんね」
烈太郎の経験としてのアーカイブを紐解くと、ヴェロンや他の肉食系植物の集団のそういった特性を利用して正太郎らが囮になって戦略的に利用したことがある。しかし、今の知能が進化したヴェロンをもう二度と同じ手には使えない。
「アイ姉ちゃん。モニターの様子から察すると、もう反撃しないとヤバいよ。何とか無理矢理でもいいからいいタイミングを教えて!」
「ええ、でも……、これだけ警戒が厳しいと止まって撃つタイミングなんて……」
上空には、今か今かと獲物を狙うヴェロンの先鋒隊の姿が増えてきた。何とか戦闘速度で動き回っている烈風七型であるから敵も攻撃を仕掛けて来ないが、ここで止まったら否応無しに特攻を仕掛けて来るだろう。
アイシャにも烈太郎にも焦りが生じていた。単独での戦略の難しさを思い知らされた。
烈太郎は、高性能機として特別視されていたことへの恥を知った。そしてアイシャは、幼少の頃より才媛ともてはやされていた自分への恥を知った。
「持つべきものを持っていると煽てられて。なのに、こんな一大事に手も足も出せないなんて……」
アイシャが思わず口に出した言葉に、烈太郎は同じ思いで胸が痛んだ。
「アイ姉ちゃん! オイラたちはどうなってもいいから撃とう。アイ姉ちゃんには悪いけれど、オイラもう我慢できない!」
「それは同じ思いです、烈太郎さん。私もどうなっても構いません! 撃ちましょう。それで沢山の命が救われるのなら……!!」
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