③ページの騎士
「今回の式典は我らこの地に住まう人々の為の建国を意味する大切なものであるが、それと同時に始祖ペルゼデール様のお披露目を祝う意味も多分に含まれている。貴様ら始祖ペルゼデールに忠誠を誓う騎士たちは、そのことを胸に案じ、心して式典の成功を願う物なり」
恒例とは言え、ここ数週間の朝礼と言えば副司令官のこの訓示で締められる。
第五寄留エース部隊隊長、黒塚勇斗は、この言葉を耳にするたびに熱き想いと同時に胸を締め付けられるようなプレッシャーに打ち震えていた。
「ユート隊長! あたしに隊長の護衛役をお申しつけ下さい! あたしの実力ならその資格があるはずです!」
ここ数日間、ミシェル・ランドンが部隊別ミーティングになると決まって駆け寄って提言を申し出てくる。
勇斗は、本来なら自分の事で目一杯だった。それは無理も無い事で、勇斗はまだ実戦経験も少なければ、年齢に至ってもまだ十六才である。
古来、先人たちは十五才にもなると元服を済まし、今でいうところの大人の仲間入りの儀式を果たしたものだが、それには時代が違い過ぎる。
勇斗の育った時代ともなれば、コンピューターの発達により教育改革が成されるようになり、一応十五才までに高等教育を済ましている。しかし、十六才からは選択式の実践課程教育を行うことになっている。
彼はそれを行わずにヴェルデムンドに移り住んだので、まだ何かと経験が浅く要領も得ていない。
「ミシェル隊員、そういう事は秘書兼副隊長であるこの私に言って下さいね。黒塚隊長は、今度の式典のデモンストレーションの事でお忙しいのです」
ミシェルが勇斗の一人きりのところを見計らって言い寄って来たはずなのに、セシル・セウウェルが隙を見せずに割って入る。
「セシル副隊長、あたしはユート隊長がお忙しいからこそ護衛役を申し出ているのです! こちらだって考えがあっての提言なのです」
「あなたの気持ちは分かるけれど、ここは一応軍隊なのよ。新設の組織だからって、そうそうはいそうですかって簡単には決められないの。分かって?」
「ならばお尋ねします。セシル・セウウェル副隊長は、何ゆえに副隊長であらせられるのでしょうか?」
ミシェルの言い様は、正にセシルのコンプレックスを貫いた。確かにこの女の言う通り、何ゆえに副隊長であるのかと問い詰められると返答に困ってしまう。それが、隊長である勇斗からの信任によるものであることは確かであり、力不足を否めない黒塚勇斗のお守りとしての役目であることは間違いないからだ。しかし、それをここでは言ってはいけない辛さがある。
セシルは、ぐっと言葉を飲み込んでこう答えた。
「私が副隊長であることに不服があるのなら、査問委員会に進言してくださっても結構です。それでも不服ならば、私とあなたでどちらが相応しいか、フェイズウォーカーの対決で優劣を測ってもいいかもしれません」
セシルは毅然とした態度でミシェルをにらみ返した。
その迫力に負けじと、
「あたしはそれで構いません。ならば副隊長のお言葉通り査問委員会に進言して、あたしが副隊長に相応しいというところを思い知らせて見せましょう」
ミシェルも一歩も引かなかった。
まだ組織として未熟な部分があることを理解していた上層部は、このミシェルの提言をかえって好意的に受け取ったのは言うまでもない。
式典まであと二週間はある。その内に部隊の再編制と士気高揚を理由に、セシル・セウウェルとミシェル・ランドンの公開対決が急遽行われることとなった。
「セシルさん、こんなことになってしまって」
自分が情けないばっかりに、このような事態を招いてしまったことを勇斗は嘆いていた。
「何を言っているのよ。あのミシェルって子は、あなたのせいで言い寄って来たのではないわ。私も女だから何となく分かるのよ、あの子の気持ち。でもね、だからと言って今度の対決に負けるわけにはいかないわ。だって、これはあなたの為でもあるんですからね」
彼女は、勇斗の鼻を指でちょんと抑えるとにんまりと笑った。その可愛らしい笑顔に勇斗は一抹の不安を感じていた。
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