横恋慕

 日本語と言うのは、実に面白いなぁと思いませんか。恋をしている隣(横)で恋慕う──、まさに的確過ぎる表記は、落語の落ちのようで思わず「うまい!」と唸ってしまいます。


 その『横恋慕』のお話。

 される方はとんでもない修羅場が待ち受けているのですから、有り難くない、ただの迷惑至極ですよね。

 する方にも大変な結末が待っているので、人を呪わば…ではないけれど、良いものではありません。

 私の友人から聞いた話をひとつ。


 彼女が彼に出逢った時、彼は結婚直前のマリッジブルーの只中だったそうです。そんな彼に、彼女は一目惚れをしたらしく。


 一目惚れした彼女。それだけなら横恋慕もまだ可愛いと笑えますが、可愛いで終わらないのが世の常です。

 彼が彼女を気に入ってしまうのだから、修羅場が目に見えるような展開が始まります。


 結婚直後だというのに彼は新居に帰宅せず、彼女のアパートに毎日転がり込み、週末だけ新妻の待つ家に帰るという、二重生活を始めたそうな。

 それを許した彼女も彼女なら、そんな生活を平然と実行した彼も彼だと呆れてしまう私。

 勿論、こんな生活は長くは続かないのです。愛人の立場に彼女が苛立ち、喧嘩にもなりますよね。

 喧嘩になった時、当然のように悲劇が起きました。


 なんと、彼。

 彼女の顔面にノートパソコンを投げつけたのです。

(ノートパソコン投げるか普通!?)

 顔面にクリーンヒットした彼女。前歯を折り、鼻血を噴いて大惨事に。

 横恋慕の末の悲劇であります。

 結局、別れて職場にも居づらくなるという結末になるのですが。

 まぁ、それでも一時は幸せな夢を見たのでしょうから、横恋慕がしたかった彼女には、良い思い出なのかもしれないですよね。

 

 横から恋慕すれば、それが成就しようが破局しようが無傷ではいられないし、必ず誰かを踏みにじって不幸にしているのだということを、考えないのでしょうか。


 恐ろしいものだと思う。

 恋という、魔物は。

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