何がどうなってんだか

「その前に、服をどうにかしたほうがよくない?」

「うーん、着替え取りに戻るのも面倒なんだよなあ。ひどいの上着だけだろ、脱いだら大丈夫じゃないか?」

「どうなかあ」


 言いながら、二人は地下の一室へと向かった。なし崩しに、フルヤまでウタをあずけに行くのにつき合わせる形になる。

 おまけに、寝床になっているかごへ入れようとしても、ウタは、今までになく嫌がった。

 これまでもルカと離れたがらないことはあったが、いくら言い聞かせてもルカにぴたりと張り付いたままだ。

 迷惑そうなかおをした妖異の保留施設の管理人を横目に、フルヤが囁きかける。


「いつもこんななのか?」

「いや、今日は…あの光の妖異が出てからおかしくて」

「光? 闇とか電気喰うのじゃなくて?」

「僕もはっきりは聞いてないけど――」


 どん、と鈍い音を伴って、地面が揺れた。

 不意打ちに呆気なくすっ転んだルカは、だからそれを、あお向けの状態で目にすることになった。

 おおきな腕が壁を壊し、ウタやその他の小型の妖異の寝床になっているかごを潰し、立っていた管理人を弾き飛ばす。


 どくりと、身体の中で何かが動いたような気配がした。


 肩に温かいものが触れて身を強張らせると、そっと、フルヤが顔を覗き込んできた。巨きな腕を警戒して、顔と顔をぶつけそうだ。

 目だけで外へ出ようとげていて、ゆっくりと、うなずき返す。

 運良く、というべきなのか、腕に廊下まではじき出された管理人のところまで移動して、ルカとフルヤは少し息をゆるめた。

 あんなものと同じ部屋にいては、こわくて気軽に呼吸もできない。


 開いたままの扉から中をうかがうと、腕はかごの中から出てきた物や動物と同化した妖異を手当たり次第に握り潰し、どうも、取り込んでいるようだった。

 気のせいか、元々はかろうじて人間のものに見えなくもなかった大きさが、握り潰すごとに大きくなっているように見える。


 フルヤと目線で打ち合わせ、気絶している管理人をそっと持ち上げ、大会議室のある奥へと進む。

 いつもならこの階には練習を行う者や第一部から第三部までの人間が詰めているだろうに、ルカたちがウタにてこずっている間に放送された通りに帰ったのか、あれだけの音がしたというのに、廊下には誰一人として出てきていない。


「――霧月で障壁でも張っとくべきだったか…?」

「でも、それで目をつけられたりしたら僕たちでどうにかできるのか…。他の妖異を――共食いするなんて、聞いたことはある?」

「…いや。何がどうなってんだか」


 とにかく大会議室まで行けば、集まれるだけの隊長や副隊長が――リツやソウヤたちがいるはずだ。それだけを頼りに、二人は先を急ぐ。

 ウタは今も黙ってルカの肩に乗っているが、フルヤよりも体格のいい管理人は、二人がかりでも少し引きずってしまっている。

 その上、ルカの身体の中で何かがうごめいているような感じがあった。驚いて脈拍が速く強くなっているせいだと思おうとするが、不安は消えない。

 もしここで、身体の中の妖異が暴走すれば。


 早くリツに会わなければと、ルカは、汗で滑りそうになる手に力を込めた。大会議室まで、気が遠くなるほどに離れているわけではない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る