まだ先の話だけどな

「でもりーけど、基礎が叩き込めたら、武具は練習ではなるべく変えていくからな」

「…はい?」

「そのなあ、言っちゃなんだが、武具ってのは壊れるもんなんだよ。気ぃ通して強化してっけど、折れたり欠けたりヒビ入ったりするんだよ、やっぱ。で、なんでだかウチは大掛かりなのによく連れて行かれたりして、もうぎっりぎりの生死紙一重の戦場とかあってな。そんなとこで、愛用の武具が折れて他のやつは慣れてないんで使えませーんとか、通用すると思うか? やってもいいけど、下手したらあの世行くぜ」


 どこか気の毒そうに、リツは肩をすくめた。

 やっぱり無駄じゃないかと、ルカの肩は下がる。その肩を、つかまれた。


「それ、勤務中は肌身離さずにいろよ」

「はい?」

「使い込みがしてあるってだけで、精度は上がる。使わないなんて馬鹿げた話はねーだろ。ジンクスでさえ味方に引き込んで、俺らは戦場を生き延びてんだぜ」

「で、でも、今」

「頼りすぎんなってコト。それ一本で切り盛りできんなら、それでもいんだよ。でも現実問題無理だかんな。訓練は訓練。最悪や予想外も多くやるから、武具を変えるのもその一つだ。ま、しばらくは基礎叩っ込むから、まだ先の話だけどな」

「は、はい…?」


 理解しきれずにいるルカの肩をばしばし叩き、リツは苦笑する。


「まー俺は話下手だし? 納得したけりゃ、ソウヤにでも訊いてくれ。あいつはそーいうの得意だかんな。とりあえず、今後の予定はみっちり基礎やるってのだけ覚えとけ。本来学校で仕込まれるはずなんだけどな。ったく、どんな方針変えしやがったんだか」

「今は隊長の頃とは違うんですか…?」

「おうよ。最低限、反射で動けるくらいにゃ叩っ込まれたかんな。あんときは鬼、と思ったけど、現場出て、たしかに最低限だって思ったもんだぜ。それが今ときたら…そうだ、一つ謝っとかねーとな」

「…は?」


 学校の実技での苦労を思い出し、それ以上というリツらの頃を想像しかけたために、反応が遅れた。

 リツは、あっはっは、と、誤魔化すように笑う。

 ところで今の距離は、もしかしなくてもとても近くないのか。リツの長いまつげに触れそうで、冷や冷やする。


「いや、この数年新人なんて来た途端に転属願い出したのが二、三人いたくらいでよ。まさか学校自体が使い物になってねーなんて思ってなかったわけよ。で、こりゃダメだわ向いてねーしすぐぇ上げっわ、と思って昨日までほとんど放置してたんだよな。うん、悪かった。ごめんなさい」


 深々と頭を下げるリツを前に、ルカは言葉を失う。

 口が悪いのは基本で、いやでもこれは、怒るべきなのか、落ち込むべきなのか。

 ルカがそんなことを考えて硬直している間に、リツはおそるおそるといった風に顔を上げ、困ったように首を傾げた。


「…怒ってるか?」

「いえ――結局僕、使えないってこと、ですよね…?」

「え」


 今度はリツが絶句する。が、すぐに、頭が転げ落ちそうな勢いで首をふった。


「違う違う違う。そりゃ今は全然だけど、俺らん頃で言や四年終わりくらいだけどっ」


 全くフォローになっていない。

 四年生では、三年間の他と変わらない義務教育期間を終えて一年、ようやく本格的に始めるための入り口に立ったところでしかないではないか。

 沈みきったルカの顔色に、慌てたリツが一層激しく、今度は手まで加えて首をふる。


「だから今は、だって! みっちり基礎やってある程度考えなくても動けるようになったら絶対凄いって、お前。頭いーみたいだし、やりようによってはダンゼン俺より使えるって!」

「気休めはいいです…」

「アホか」


 俯いた頬を、両手で挟むように叩かれる。しかも、つねって引っ張る。地味に痛い。

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