「俺の目が節穴だったって話だ」
「ったく、楽にしろっつってんのに」
怪我をした左肩が少し痛んだが、そのくらいで手を止めるようなことはない。
リツは自分で自分の肩に包帯を巻けるほど器用ではないので、後で、医務室に寄るか知人を捕まえることに決める。
部屋の
『はい、第二部三課ミムラ――』
まだ若い男の声が出る。リツは、
「昨日は悪かったな」
『――遅かったですね、今回。早く代わり
「俺の目が節穴だったって話だ。残るとよ」
それどころかリツの
『そうですか、それはそれは。リタが喜びます』
「は? なんで? 成績一番下だろ?」
『ああ、それはそうなんですがね。一度、廊下でぶつかってノートを目にする機会があったらしくて』
「ノートぉ?」
『そう。入れ替わっちまったらしくて、後で気付いてびっくり。で、これがなかなか上手くまとめられてたらしいんです。ただ、試験の結果を見るに、本番に弱いんだか思考が
「へえ…」
なんだ、認めている奴もいたのに気付いてなかったのかあいつは、と、苦笑がこぼれる。
『新人が居つくってことは、他は当たらなくっていいんですね?』
「いや。ウチに希望だしたって馬鹿がいたろ」
『ああ、前代未聞の二人ですね』
「そうそれ。なるべく早く、ウチに回してくれ」
『…そりゃ、やれることはやりますけどね。いいんですか。言っちゃなんですが――』
「わーってるよ、キナ臭いってんだろ。いーんだよ、面倒ごとはまとめて早々に片付けりゃ」
『そんな無茶な』
「ソウヤがもうすぐ退院だかんな。多少の無理はきかせるさ」
『…おれ、つくづく、早くに転属願い出してよかったと思いますよ。リタの希望を叶えてくれなかった二部三にも感謝します』
「へっ、言ってろ。それより、今の実技はどうなってんだ? この間模擬指導に呼ばれてよ、ウチのもまとめて対応見てたらラチあかねーから、基本、左方構えっつっても動かねーの。俺らんときはさんざ、型叩き込まれたよな? 型言われたら、
『色々、方針も変わってきてんですよ。今は校長も変わりましたしね。まあ、そういった話はまた今度』
「ああ。じゃあ、たのむな」
受話器を置くと、がちゃん、と、他に人のいない部屋に響いた。
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