第265話 でも、あなたは一つだけミスを犯した
「・・・私もおかしいなとは思ってたわ。それにトキコー祭の直前から急に基礎体温をつけ始めたし。今頃になって「あー、そういえば」と思ったところで遅いわよね・・・その段階で気付けば良かったと思ってるわ。それに、もう1つの決定的な証拠も見付けたしね」
「決定的な証拠?・・・まさか!」
「・・・・・」
藍は無言のまま左手をブレザーのポケットに入れたかと思うと、それを俺の目の前に持ってきた。そう、俺がベッドの下に隠していた『アレ』だ。しかも開封してあって半分以下に減っているのだからバレバレだ
「・・・唯さん、自分から拓真君を誘惑しておいて、それでいてできちゃったと思い込んでいた。まあ、たしかに『あれ』が来ないなら疑うのも仕方ないけど、結果的にエントリー締め切り後に間違いだと分かったから真の理由を言い出せなくなった。だから号泣しながら土下座して私に謝ってきたから私も正直呆れたけど、今更そんな事を蒸し返しても仕方ないから『もう気にしてないから大丈夫よ』としか言えなかった。だけど内心は私もショックだったなあ」
「・・・ゴメン」
「別にもういいわ。以前、私だってあなたに嗾けるような事を言ってるからね。でも、本当にやっていて、しかも初めての時が原因だったとは夢にも思わなかったのも事実よ」
「・・・・・」
「だから私も正直に『元カノ』になる原因となった出来事を話したわ。さすがにどこでというのは口が裂けても言えないから『私の部屋で』って誤魔化したけど、あなたが私に嫌われたと思い込むきっかけになった言葉も確かに解釈の仕方でどうにでもなるわね。そこは唯さんも認めたわ。だから『拓真を貸していただけ』という意味を唯さんも解消できたようで納得していたわ」
「そうか・・・」
「唯さんから話は聞いたわ。たしかにあなたの判断は間違ってない。正直に言うけど、これじゃあ私も唯さんも受け入れるしかないわね。しかもあなたは私との約束も守った。今年の入学式の日に言っていた『私と唯さんの両方と均等の距離を保ちつつ、唯さんの精神を安定させる方法を見つける』という言葉を見事に実行したから、これには私も反論できない・・・」
「それじゃあ・・・」
「・・・でも、あなたは一つだけミスを犯した」
「ミス?どういう事だ?」
「・・・私はあなたに言った筈よ。『私の気持ちは今でもずっと変わってない。いや、逆かな。あんな事があったから逆に止まってしまったと言うべきかもしれない』ってね。私の中の時間はあの時のままだから、このままだと、あなたの話を受け入れる事は出来ない!」
「そ、それって・・・つまり・・・」
「・・・本当は唯さんと同じ事をするつもりでいたわ。唯さんも気付いたらしくて黙って立ち上がったわ。唯さんが『お義父さんたちと一緒にお義姉さんのところへ行きたい』ってお義母さんに話をして半ば強引にお義父さんたちを連れ出したのは事実よ。出掛ける直前に自分のスマホを私に差し出しながら『いつもと違う靴を履いていくから』とだけ言って」
「そうだったのか・・・」
「準備万端で結構気合入れて待ち構えていたつもりだったけど、直前になって気が変わったから冬の制服をわざわざクローゼットから取り出して着替えたわ。拓真君が戻ってきたのは着替え終わった直後くらいかな。本当はあの時と同じブラを使おうと思ったけど、カップが違うから跡が残るのが嫌だったからやめた。でも、同じ色の物を使ってるから安心してね」
「俺にあの時の続きをやれってことかあ!?それに『安心してね』の使い方が変だぞ。だいたいさあ、同じ色の物って言われても俺は直接見た訳じゃあないから覚えてないし・・・」
「お願い・・・私の中の時間を進める事が出来るのは拓真君だけ・・・」
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