第264話 泣きながら教えてくれたわ
どういう意味だ?家の中にいるならメールで話さなくてもいい筈・・・しかも1階には誰もいない・・・という事は藍も唯も2階にいるという事だな。恐らく藍か唯のどちらかの部屋にいる筈だ。
そう思って俺は階段を上がった。階段を上がってすぐ左のところには俺の部屋の扉があるけど、その前を通過して右の手前側にある唯の部屋の扉の前で止まった。
“トントン”
俺は唯の部屋の扉をノックしたけど何の反応もない。あれ?おかしい・・・もう1回ノックしたけど反応が無い・・・俺は思い切って唯の部屋の扉を開けたけど誰もいなかった。だから俺は藍の部屋をノックした。だけど何の反応も無いから、こちらも扉を開けたけど誰もいなかった。
1階の父さんたちの部屋と客間は扉が開いていたから誰もいないのは間違いない。キッリン兼リビングに誰もいないのは確認済みだ。となると、残るは俺の部屋だけだ。藍と唯は俺の部屋で待ってるという事か?
そう思って俺は自分の部屋の前へ戻って自分の部屋の扉をノックした。
“トントン”
『どうぞー』
この声は藍だ。やっぱり二人とも俺の部屋にいたんだ。だから俺は無造作に扉を開けた。
「おーい、ただいまー」
そう言って俺は扉を開けたら、ベッドを椅子代わりにして藍が座っていてクールな瞳で俺を見ている。。
でも、それを見て俺は不自然な事に気付いた。
藍はなぜかトキコーの制服を着ている。しかも9月なのにわざわざ冬制服を着ている。それに・・・部屋には藍しかいなくて唯はいない!
どういう事だ?何があったんだ?
「あのー・・・唯はどうしたんだ?」
俺は藍の前へ歩いていきながら尋ねたけど、藍は返事をしなかった。
だけど、返事の代わりに藍は立ち上がった。そのクールな瞳で俺を見据えたまま近づいてきたかと思うと、いきなり俺の首に腕を回してきた。そう、簡単に言えば俺に抱き着いてきた格好だ。
「お、おい!唯はどこだ?」
俺は藍の目を見たけど、藍は何も答えなかった。その代わり、俺の首に手をまわしたままを藍自身が背中から倒れ込むようにしたから、形だけで言ったら俺が藍をベッドに押し倒した格好だ。
「!!!!!」
「・・・・・」
俺は何が何だかさっぱり分からない。だけど、藍の表情からさっきまでのクールな表情が消えた。その代わり弱々しい女の子の表情に変わった。そう、あのクイズ勝負の時に不正を認めて泣いた時の表情に。
それを見て俺は「ハッ」となった。
「藍・・・まさか唯は・・・」
「・・・ごめんなさい・・・唯さんはお義父さんとお義母さんと一緒にお義姉さんのところへ行ったわ」
「姉貴のところへ?」
それだけ言うと藍は俺の首に回した手を離して、右手を自分のブレザーのポケットに入れて、そこに入っていた物を俺の目の前に持ってきた。
「そ、それは!」
「・・・そう、唯さんのスマホ・・・ごめんなさい」
それだけ言うと藍の目から大粒の涙が流れた。
「・・・どうして藍が持っているんだ?」
「・・・唯さんが泣きながら教えてくれたわ。どうして今年の『ミス・トキコー』にエントリーしなかったのか、その本当の理由をね」
「!!!!!」
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