第262話 お願い、嘘だと言って・・・お願い!
唯はコーヒーにスティックシュガーを入れてたけど、そのままの姿勢で固まった。さっきまでニコニコ顔だった唯の顔が一瞬のうちに曇り、そのうち涙が溢れてきた。見ている俺も辛くなってきたがここで折れる訳にはいかない。
唯がゆっくりと顔を上げて俺の方を見た。俺は唯に視線を合わせるのが辛かったが、それでは唯に失礼になるかと思って唯に視線を合わせた。唯の目からは大粒の涙があふれている。
「たっくん・・・お願い、嘘だと言って・・・お願い!」
「すまない・・・俺は唯を選ばない」
「たっくーん」
もう唯は涙をボロボロと流して肩を震わせている。大声で泣きださないのは周囲にいる人に自分が泣いているというのを悟られないようにする為だろうが、そこが逆に痛々しい。
それから俺はゆっくりと話し出した。なぜ俺が唯を選ばないのか、その訳を少しだけ話した。これで唯が納得するかどうかわからない。でも、唯にだけかまけている訳にはいかない、藍に伝えなければならないことがある。
唯はまだ泣いていたが、無理矢理笑顔を作って
「たっくん・・・じゃあないね、『お兄ちゃん』だね。お兄ちゃんはあの日、唯を守ってくれると約束した。それをちゃんと守ってくれたからお兄ちゃんは悪くない、ううん、唯は十分だよ。だからお姉さんと話すは唯にやらせて欲しい」
「いや、それは・・・」
「お願い、唯にやらせて!」
「でも・・・」
「唯はお兄ちゃんの役に立ちたい。お兄ちゃんの足を引っ張る事はしないから、お願いだから唯にやらせて!」
「・・・・・」
唯は必死になって俺に懇願するので、俺も最後には折れた。だから藍に話すのは唯に任せる事にした。
「・・・頼むから藍に喧嘩を吹っ掛ける事だけはしないでくれよ」
「絶対にしない。それは約束する」
「『たっくん』って言ってもいいんだぜ。無理して『お兄ちゃん』なんて言わなくてもいい。俺は全然気にしてないから」
「ううん、もう『たっくん』とは言わない。唯なりにケジメをつけさせて欲しい」
「そこまで言うなら唯の好きにすればいい。俺はどっちでも構わない」
「ありがとう。絶対にお兄ちゃんの期待に応えられるよう、頑張るから」
それだけ言うと唯はポケットから取り出したハンカチで涙を拭って立ち上がった。
「唯、もう行くのか?」
「『思い立ったが
「そりゃあそうだけど」
「お兄ちゃんは何も考えずドーンと構えてればいいんだよ」
「分かった」
「じゃあ、行ってくる」
唯は軽く右手を上げて小走りにマイスドを出て行った。いや、多分小走りに走って行った本当の理由は・・・やれやれ、唯自身は『
あれから30分以上過ぎた・・・俺は一人だけになったけどまだコーヒーを飲み続けている。吉報を待つだけだから退屈だ。でもいつまでもコーヒーを飲み続けている訳にもいかないから、適当なところでマイスドを出て帰ろうかな・・・
”♪♪♪~“
来た!メールだ!俺は待ちきれないといった感じでスマホの画面を見た。
『これからお姉さんと話します。吉報を待っていてください。唯より』
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