第249話 山口先生、過去を語る 後編
「あー、はい。自慢じゃあないですけど・・・」
「質問だ。同姓同名の『ミス・トキコー』がいるのを知ってるか?」
「あー、はい。記念すべき第1回、つまり第5回トキコー祭の時の優勝者が3年生、第3代ミス・トキコー、つまり第7回トキコー祭の時の優勝者が2年生ですから同姓同名の別人だというのは百パーセント間違いないですけど、どちらも中山久仁子さん・・・え?え、え?」
「「「えーーーー!!!! \(◎o◎)/」」」
「そういう事だ。一昨年の『準ミス・トキコー』前年の『ミス・トキコー』が3年生になったら中山久仁子から山口久仁子に変わっていたから、校内がひっくり返るくらいの大騒ぎになったさ。しかも校内で有数の有名人である山口兄弟の義理とはいえ妹になったのだから、有りもしない噂が校内中を飛び回って大変だったんだ。一番多かったのは『義理の妹とか言ってるけど本当はどちらかと結婚したんだ』という話だったけど、他にも色々と根も葉もない噂話が学校中を飛び回って、当時の生徒指導の先生も風紀委員会も忙しかったぞ」
「「「・・・・・」」」
「だから3年生の時はボク自身が嫌気をさして『ボクは絶対に今年のミス・トキコーに出る気はない』って宣言してたんだけど、周りが勝手に登録しちゃってさあ。そりゃあ二連覇確実の大本命とか言われてたけど、ボクから見たら嫌がらせ以外の何物でもないから、当日は会場へわざと行かなくて自分から生徒指導室の内側から鍵をかけて籠城する実力行使に出たのさ。コンテストは時間通り始まったけど、やむを得ずボクの自己PR順を一番最後にする緊急処置をして、新渡戸先生だけでなく当時の教頭先生や校長先生まで乗り出して説得にあたったけどボクが断固として鍵を開けるのを拒否してたから、これ以上待たせると他の行事にも影響が出るとの理由で校長先生が決断する形で司会者が出場辞退を宣言する事になったんだ。しかもボクを納得させる為にわざわざ講堂の音声を校内放送につないで司会者が出場辞退の宣言をしたのさ。これが『ミス・トキコー』史上唯一の、嫌がらせ目的のエントリーの真相だ」
「そうだったんですか・・・」
「当然だがその年の真の最多得票者はボクだが、出場辞退したから無効票扱い。だから幻の『ミス・トキコー』二連覇で、本当なら藤本は三人目の『ミス・トキコー』2回達成者になった筈なのさ。まあ、唯も幻の『ミス・トキコー』二連覇だからボクと同じような物だな」
「そうですね」
「大学生になってからメンバー間で色々あって大学3年生の時にバンドは解散する事になったんだけど、その少し前の2年生の正月の時に、酔った勢いで上の兄貴と関係を持っちゃったのさ。ここからきょうだいの関係が少しずつおかしくなってしまったんだ。後で知ったんだが上の兄貴はメンバー二人の妹と二股してたらしく、そこへボクとも関係を持ったから三股になった事がバレてバンドメンバーがギクシャクし始めて結局解散する事になったのさ」
「「「・・・・・」」」
「上の兄貴を悪く言うつもりはないけど、その後もズルズルと関係が続いたんだ。兄貴たちは二人共公務員になったけど上の兄貴はずうっとメンバーの一人の妹とも関係を持ち続けていて、それが大学を卒業して旭川時計台高校の教員になった最初の夏にデキちゃった事が分かって、特大のビンタ1発で関係を解消して、それ以降、上の兄貴とは関係はキッパリと絶った。でも、今は仲直りしてるし上の兄貴たちは千歳市に住んでるけどな」
「「「・・・・・」」」
「でもなあ、下の兄貴からいきなりプロポーズされたから参っちゃってさ。下の兄貴は上の兄貴に隠れて殆ど目立たない地味な存在だったし、上の兄貴は文武両道、しかもバンドのリードギター兼ボーカルの中心人物だったのとは対照的にサイドギターを黙々とやってるような奴だったし、上の兄貴は高校時代から結構噂話が飛び交うくらいのチャラ男だったけど逆にクソがつく程の真面目な奴だったからなあ。まさか小学生の頃からボク一筋だったとは思ってなかったから動揺しちゃってさあ。しかも自分の兄貴の元カノだと知ってて直球勝負してきたからなあ。まあ、最終的にOKしたけどね。本当はその時に教員を辞めるつもりでいたんだが、松浦先生が札幌時計台高校の教頭になるって聞いたからダメ元で相談したら、異動という形で札幌時計台高校に配置換えさせてもらえる事になったから、教員を辞めずに済んだ」
「じゃあ、山口先生が結婚してるのを知ってたのは校長先生だけなんですか?」
「いや、校長先生と教頭先生、それと榎本先生の三人だ。それ以外は誰も知らない。榎本先生には3年間社会の授業を教わってるから三人ともいわゆる恩師だ。だから結婚の報告はしたけど公表しないようにお願いしたら快く承諾してくれた。今は定年退職していないけど、札幌時計台高校に異動してきた時の食堂に在学中からいたおばちゃんが二人ほど残ってたから、そこから情報が漏れるのが嫌だったのさ」
「なるほど・・・」
「でも、義理とはいえ
「そういう事だったんですか・・・」
「それと拓真の姉さんなら知ってると思うけど、ボクが札幌時計台高校へ異動してきて最初の年に『影のミス・トキコー』になったのは有名な話だぞ。だからボクは教員の時と生徒の時に『ミス・トキコー』に選ばれた唯一の人物であり、同時に既婚者でありながら『ミス・トキコー』に選ばれた唯一の人物でもあり、史上唯一の『ミス・トキコー』3回達成者でもあるのさ」
「言われてみればそうですよね。何か凄いですよね」
「両親を亡くして親戚の養女になったこと、『ミス・トキコー」の関係者であること、同じ学年に義理のきょうだいがいること、ボクには藍と唯が
「「「すみません・・・」」」
「教頭先生も榎本先生も同じで朝からボヤキまくりだぞ」
「「「すみません・・・」」」
「はーーー・・・血縁上ではボクと下の兄貴は
「「「・・・・・」」」
「ボクが二股、三股をしている生徒を見ると烈火の如く怒るのは、実の母親が男を作って出て行った事もあるし、彼氏でもあった上の兄貴が二股、三股していた挙句に上の兄貴から捨てられたも同然だから、無性に腹が立つのさ。捨てられたという自分の境遇をただ単に重ねているだけなんだけどな」
「そうだったんですか・・・」
「だから恋愛相談されると自分のような女を、まあ、男でも同じだが不幸な生徒を増やしたくないから、ついつい頑張り過ぎちゃうけど逆に生徒たちの受けがいいのも事実だ。これも自分の境遇から来てると言っても過言ではないかもなあ」
「「「・・・・・」」」
「さすがに今の藍と唯から『拓真君と付き合いたいから相談に乗って下さい』などと持ち掛けられても拒否させてもらうぞ。ボクも修羅場の仲裁は勘弁して欲しいからなあ」
「「すみません・・・」」
「拓真が藍と唯のどっちを選んでもボクは文句を言うつもりはないが、だからと言って藍と唯が修羅場を学校まで持ち込むようなら、ボクにも覚悟があるぞ。これはお前たち三人への警告だと言っておくぞ」
「「「はい!分かりました!!」」」
「分かればよろしい」
それだけ言うと山口先生はニヤリとした。
それっきり山口先生は何も喋らなかったけど鼻歌を歌いながら結構ご機嫌でいた事には違いない。
俺と藍、唯はそんな山口先生を黙って見ている事しか出来なかった・・・。
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