第207話 挑戦状

 時間は進んで月曜日。

 今日も俺と藍、唯は三人揃っての登校だ。

 明日からは期末テストだから今日はどの部も活動がない。まあ、朝練も今日は無い日なのだから、運動部の連中も俺たちと変わらないくらいの時間に登校してくるはずだ。

 だが、今の俺にとって期末テストなんかどうでもいい。「どうでもいい」と言うのは大袈裟かもしれないけど、俺たちクイズ同好会の未来が掛かっているんだ。俺にとってはクイズ同好会存続の方が重要だ。今回ばかりは唯が土下座してきても譲る気はない!

「たっくーん、昨日も一昨日もテスト勉強してるように見えなかったけど、今回は自信があるの?」

「勿論!今回は自信ない!!」

「はあ?拓真君、そこは『勿論、自信ある』と答えるのが普通よ」

「そうだよ。まるで自信がなくても問題ないと言わんばかりだよ」

「いや、今回はこれでいい。俺はクイズに全力を注ぐ。期末テストは通過点にしか過ぎない」

「たっくーん、まるで『俺は高校生クイズキング選手権以外には興味ない』と言ってるのと同じだと思うけど」

「私もそう思うわよ。ちょっと暴言じゃあないの?」

「お姉さんの言う通りだよ。せめて全教科平均点以上を目指そうよ」

「唯さんの言う通りよ。トップ10に入れとは言わないから、せめて平均点以上よね」

「俺たちの存在意義が問われているんだぞ!今回ばかりは追試にならない程度でいい!」

「「!!!!!」」

 俺が珍しく声を荒げたから、藍も唯も黙ってしまった。それくらいに俺が藍や唯に面と向かって反論した事が珍しいのだ。まあ、確かに『追試にならない程度でいい』は暴言ではあるが、このまま中途半端で終わらされそうなのが悔しくて仕方ないのだ。相手が『トキコーの女王様』藤本先輩でも大人しく引き下がるのは嫌だ。せめて一太刀、いや、一太刀どころかギャフンと言わせてみたいのだ。それは篠原も長田も同じで、昨日も一昨日も1日中伊勢国書店に籠っていたくらいだ。

 藍も唯も俺の前でコソコソと話をしてるけど、「ばっかじゃあないの?」とか「ちょっと鼻をへし折ってやろうかしら」などという声が時々聞こえてくる。藍や唯にとってはクイズは単なる余興とか趣味・娯楽の一種かもしれないけど、今の俺にとっては人生そのものだ。

 結局、今日の俺には誰も話しかける事なく南北線を降りた。舞だけでなく中村と内山、それに堀江さんも俺が殺気立っているように感じたのか一番最初に会った途端にササーッと距離を取ったくらいだから、を醸し出していたのだろう。いつもなら俺は7人の集団のほぼ中央を歩くのに、今日に限っては6人の後ろを歩いていて、しかも中村や内山までもが「今日の拓真はおかしい」「おかしな物でも食べたんじゃあないのか?」などと囁き合っているのが聞こえる。

 そのままトキコーの正門を・・・と思ったけど、そこにいた風紀委員の腕章をした中野さんと上野先輩の態度が明らかにおかしい。いや、正しくは俺に向けて鋭い視線を浴びせている。まるで俺が何か悪者みたいな感じの視線を浴びせているし、よーく周りを見渡したら、周囲が俺に冷たい視線、奇異な視線を浴びせている事に気付いた。

 それに、何故か昇降口の先には人だかりが出来ていてワーワー騒いでいる。一体、何があったんだあ?

 俺がそこに近付いて行ったら「たくまー、お前、本気かあ?」「正気かよ」「喧嘩売ってるのかよ」などと一斉に言い出すから、俺にも何の事かさっぱり分からない。でも、その集団の中に泰介と歩美ちゃんがいて俺を見るなり泰介が俺のところへ走ってきた。

「たくまー!お前、本気なのかあ!?」

「はあ?たいすけー、言ってる意味が全然分からないんだけど」

「お前、そりゃあないだろ?あーんなでっかい『挑戦状』なる物を貼り付けておいてさあ」

「ちょ、ちょっと待て、俺は『挑戦状』とか言われても全然分かんないんだけど」

「自分で見てみろ。惚けるのもいい加減にしろ!」

 そう言うと泰介は俺を無理矢理引っ張って行って、集団をかき分けるようにして昇降口に入り、靴を履き替えさせると俺を掲示板の前へ連れて行った。

 そこには各部や同好会、生徒会などのお知らせを掲示する場所だが、その右端に大きな紙、正確にはA2サイズに拡大された印刷物が他の掲示物を圧倒するかのように貼られていてた。

 その紙の一番上には泰介が言った通り『挑戦状』と大きく書かれていた。その内容は・・・


                 挑戦状


 俺たちクイズ同好会は3人だけで認めらた特例の同好会だが、他の部や同好会か

ら見たらゴミ屑同然の集まり、いわば雑草集団だ。

 俺たちはただの馬鹿の集まりだが、クイズに掛ける情熱は誰にも負けない。昨年

の全国大会セミファイナルで負けた雪辱を果たすべく、全国制覇を狙っている。俺

たちはクイズなら誰にも負けない。クイズあってこそのクイズ同好会だ。俺たちは

三人揃ってクイズ同好会だ。この三人組でいる限り、誰にも負ける気がしない。

 俺たちは三人以外のメンバーと組んで『高校生クイズキング選手権』に出る気は

ない。俺たちのメンバーの誰かとトリオを組んで『高校生クイズキング選手権』に

出たいという奴がいるなら、正々堂々と名乗り出て俺たちと勝負しろ!俺たちは決

して負けない。


 俺たちは三人で残りのトキコー生徒全員と勝負するつもりだ。

 一人で参加するもよし、三人で参加するもよし。俺たちに勝てると思う奴がいた

ら誰でもいいから参加しろ。


 単純に正解数の多い個人またはチームが勝ちだ


 もし俺たちを上回る個人またはチームがあったら、その場でクイズ同好会は解散

する。その後は好きにしろ!


 勝負は次の金曜日の放課後、小ホールで行う。

 松岡先生、平川先生、山口先生、榎本先生を始め、全てのトキコー教師が難問奇

問を用意して俺たち以外の挑戦者を待っている。

 当日は教頭先生が立会人を務める。


 申し込み用紙は松岡先生が持っている。締め切りは木曜日の昼休み。


                            2年A組 佐藤拓真

                            2年B組 篠原一樹

                            2年C組 長田良平


 優勝チーム又は個人には賞品として、食堂のA定食の食券15枚を進呈する

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