第202話 逆に止まってしまった・・・
ぜーったいにマズイ!舞とトキコーの食堂で昼飯を食べたレベルを遥かに超えた事を俺と藍は小樽運河にかかる
俺は味噌ラーメンを食べつつ、夕方のイベントを回避する方法を必死になって考え続けた。なんとしても藍を小樽運河方面に連れていかないように、少なくとも小樽駅方面に、出来れば「さすがに今日は帰ろう」とか言って小樽から離れさせないと、藍は絶対に去年の10月の再現ルート通りの道を通るはずだ。でも、どうやって藍を再現ルートから外せばいいんだ!?
俺はかなりテンパっていて考えが浮かばない。そのまま俺たちはラーメンを食べ終えると店を出たが、あの時と同じ店に藍は入った。俺は去年の10月の再現ルートを変えようとして「あの店へ行ってみないか?」と言って藍を引っ張って行こうとしたが、藍は「あの店は駄目。こっちの店に入るから」と言って頑なに別の店に入る事を拒否した。さすがに大勢の観光客がいる前で口論する訳にもいかず、俺は再現ルートを変える事を諦めて去年の10月に入った店と同じ店に入った。
その次の店も、その次に行った蒲鉾屋さんも、超有名スイーツ店も、俺は店を変えようと必死になって藍の説得を試みたが、結局、藍は再現ルートを変える事を頑なに拒否し続けて、あの時と同じシュークリームを注文させられた挙句とうとう超有名スイーツ店を出る事になってしまった。
俺と藍が向かった先は・・・そう、小樽運河の浅草橋だ。あの時と同じで橋の欄干に互いに手をついて運河を眺めている。
あの時と同じなら、俺が藍に向かって「藍、あのさあ」と呼び掛けて藍が俺の方を振り向いた瞬間、俺から藍に唇を重ねて・・・藍も最初はびっくりしたような表情をしてたけど、それは最初だけで結構長い間やってたなあ。秋の夕方だったから少し冷え込んでいて、昼間よりは少なかったとはいえ、それなりに人がいて車も走ってたけど、そんな事もお構いなしに。まあ、あれが俺のファーストキスではないけど、インパクトとしてはファーストキス並みにある。
ファーストキス?
そういえば・・・俺と藍のファーストキスも去年のトキコー祭の代休に・・・ぎょえーーーー!藍の奴、完全に覚えていて俺を連れ出したとしか思えないぞ!
どうする?こんなに明るくて、これだけ大勢の人が橋の周辺にいる状況なのに俺にやれっていうのかあ!?いくら何でも恥ずかしすぎる!それに・・・
「・・・唯さんに顔向けできないからここでキスするのは勘弁して欲しいって思ってるでしょ?」
「・・・やっぱり、ここでした事を覚えていたんだ」
突然藍が話しかけてきたから俺は藍の方を振り向いたけど、藍は真っすぐ運河の方を見ながら喋っていて決して俺を見てなかった。表情もクールなまま、俺が藍を見ているのを気付いている筈なのに無視するかのように、ずっと正面を見たままだ。
「・・・さすがに顔から火が出るかと思うくらい恥ずかしかったけど、私も勢いでやっちゃったからねえ。覚えてない方がおかしいわよ」
「それをサラリと言われると、身も蓋もないなあ」
「私の気持ちはその時のまま、ずっと変わってないわ」
「!!!!!」
「あの日、あんな事があったから私も気が動転して次の日は学校を休んでしまったけど、私の気持ちは今でもずっと変わってない。いや、逆かな。あんな事があったから逆に止まってしまったと言うべきかもしれない」
「・・・・・」
「・・・拓真君、あなた、唯さんとの距離が縮まったのではなく広がってるわよね」
「!!!!!」
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