第200話 もう忘れたの?

「変わってない?変わった?」

「それに気付かないようでは、拓真君は重症かもね」

「ますます意味分かんない」

「それより今日の行く場所だけど、私が決めていいかなあ」

「構わんよ。どうせ俺に選択権はないんだろ?」

「分かってるじゃあないの。そこは変わってないのね」

「変わってない?」

「いずれ、その意味を分からせてあげるわ」

 俺は藍が言いたい事の意味がイマイチ分かってない。俺のどこが変わった?俺のどこが変わらない?何を基準にして変わったのか、変わらないのかが分からない。藍は俺に何をさせたいのだろう・・・。

 俺たちは小樽駅で降りて、その後は駅前を走る国道5号線を横断して中央通りを進み、小樽運河には行かずに境町通りへ入った。このストリートは観光の中心でもあるから平日にも関わらず大勢の人で溢れている。修学旅行生だと思われる中学生の集団も見られたけど、殆どは大人だ。中には外国人とみられる人もいて、日本語以外の言葉もあちこちで飛び交っている状態だ。

 藍は・・・俺と手を繋いでいるけど、決してニコリともしない。いや、電車に乗っている間はニコニコしていたけど、降りたら女王様を彷彿させるクールな表情を崩していない。でも、ちゃんと俺の左手だけは握り続けている。

 小樽の工芸品で有名なのはガラス細工だ。有名な大正硝子、北一硝子などの店にも立ち寄り、藍はガラス細工を眺めては時々俺にニコッと微笑んで話しかけてくる。でも、話し終えると再びクールな表情に戻ってしまう。

 なんか藍のやっている事が非常にもどかしい。いや、なぜ俺に話しかける時だけニコッとするのに、それ以外の時はニコッとしてくれないのか、俺には全然分からない。何か意図するところがあるのか?それとも、今日は気分的に乗らないだけなのか?

 俺と藍は全国に名を知られた超有名スイーツ店の本店前に差し掛かると、藍は俺の腕をグイと引っ張って、有無を言わさぬまま店の中に連れて行った。おいおい、今度は何だあ!?

 藍は店に入ると俺の方を向いてニコッとして

「拓真君・・・暑いからソフトクリームを食べましょう」

「ん?別に構わないけど」

「『別に構わない』じゃあないわ。食べる事になってるのよ」

「はあ?」

 おいおい、どういう意味だあ!?マジで藍の奴、一体、何を考えてるんだあ!?俺の希望や考えは無視ですかあ!?しかも藍は俺にどのソフトクリームを食べるのかを聞く事もしないで、いきなり

「ミルク味とフロマージュを1つずつ」

とか言って注文してしまい、俺に右手を差し出している。

「ん?何?」

「お金」

「はあ?俺がかあ!?」

「そうよ」

「あれ?折半じゃあないのか?」

「違うわ。ここの勘定は拓真君よ」

「どういう事だ?」

「もう忘れたの?ここは拓真君なのよ」

「?????」

 おい、どういう事だ?しかも藍は自分はフロマージュを食べ始め、ミルク味を俺に差し出している。まるで俺がミルク味を食べる事が決まっていたかのように・・・俺は本音ではフロマージュ味が食べたいんだよなあ。以前この店で食べた時も最初はフロマージュ味にしようかと思ったけど、なーんかソフトクリームにチーズは邪道かと思ってミルク味にしたから藍だけがフロマージュを・・・

 藍だけがフロマージュ?・・・藍だけが?・・・まさか!?

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