第168話 アイドル再登場

 藍に一番先に占ってもらう事になった2年D組の中野明日香さんは周囲からの熱い(?)視線を浴びて苦笑いをしつつ藍に「『放課後お喋り隊』の運勢を教えてください」と言って占ってもらった。対照的に宮野は落胆したかのような顔をして水樹さんに「不幸続きの俺の今日と明日の運勢を占ってくれ」と言っていた。宮野とすれば早く占いを終わらせて列の後方に並び直したいのだが、列の長さと1回あたりの占いの時間を考えたら藍に占ってもらうのは無理だとは分かっている。だから占い中も藍に視線が向いていて、水樹さんも宮野の無念さが分かってるから苦笑いしながら水晶玉、いや、本当はただのガラス球だけどそれに手をかざしながら質問をしていた。

 宮野は水樹さんに質問された性別・生年月日・血液型・8種類の中の好きな色・12種類の中の好きな動物を答え、水樹さんの復唱に合わせて内山が入力した事で今日・明日の運勢が出たのだが、内山が笑うのを必死に堪えているのが見えた。俺も泰介も何が起きたのかと思って内山の所へ行ったけど、俺も泰介も吹き出しそうになった。内山が『印刷』をクリックしたから水樹さんの足元にあるプリンターが動き出して占い結果を印刷し終えたのだが、それを見た水樹さんは本当に吹き出してしまったくらいだ。

 宮野は何の事なのか分かってなかったが、水樹さんに

「宮野くーん、やる事すべて裏目に出る最悪の日よー。ついてないわねー」

と言われつつ占いの結果を見せられたから唖然としていた。後ろで見ていた鈴村までもが思わず吹き出してしまったくらいの運勢の悪さは、まさに『泣きっ面に蜂』だ。さらに「明日は今日よりもっと悪いわよー」とか言われて水樹さんにもう1枚の紙を見せられたから、宮野はマジで顎が外れるんじゃあないかってくらいに口をあんぐりと開けて結果に見入っていた。いくら藍派副会長と言われるM体質の宮野でも、この占いの結果に喜べる訳がない。しかも今朝に関しては当たっているのだから。

「まあ、今日の運勢を回復させるラッキーアイテムはトマトジュースなんだから、頑張ってそれを飲みまくりなさい。そうすれば宮野君の希望が叶うわ。明日は朝から納豆を沢山食べまくれば一番乗りが叶うはずだから頑張りなさいね」

と水樹さんは占い結果を手渡しながら宮野を励ましたけど、宮野は

「トマトも納豆も大嫌いなんだけど・・・」

それだけ言って、宮野は泣きそうになりながら立ち上がりトボトボとA組を出て行った・・・。

 丁度その時、宮野と入れ替わる形で室内に一人の一般来場者が青色の積み木を持って入ってきた。でも、それを見て俺は正直仰天した!眼鏡をかけて髪を少し脱色した若い女性だが、それが姉貴だと気付いたからだ。

 恐らく唯ソックリの姿で行くと周囲が混乱すると思ったのだろうけど、今朝までは唯と同じ黒髪のショートだったから俺たちが家を出た後に髪を自分で脱色したとしか思えない。

 その姉貴が俺に向かって

「たくまー💛」

と軽く右手を上げながら声を掛けて来たけど、声まで普段より高く、まさに猫かぶりした甘ったるい声を出している。たしかにこの声なら姉貴の声は藍と同じだとは誰も気付かないけど、さすがに俺はドン引いた。

 けど、それを指摘したら後で何を言われるか分からん。俺は軽く右手を上げて答えたが、泰介がそれを疑問に思ったのか

「誰だ?」

「姉貴だ」

「あー、そういえばお前には姉貴がいたんだよなあ」

そう言うと泰介は妙に納得した顔をしていた。姉貴は俺に一声掛けた後は易の順番待ちの席に座った。姉貴に続いて父さんと母さんも入ってきたが、こちらも青色の積み木を持っている。どうやら三人とも占い待ちの時間がない青色を選んだだけのようで、姉貴たちは大久保さんと交代した村田さんに占ってもらった後はA組を普通に出て行った。

 でも、姉貴たちが教室を出て行ったら廊下が騒がしくなった。俺は「もしかして姉貴と唯がソックリな事に気付いて騒ぎ出したんじゃあないだろうなあ」と危惧したけど、そうではなかった。廊下の大歓声の原因は、あのアイドルが来たからだった。そう、高崎みなみさんが俺たちとの約束を守ってトキコー祭に来てくれたのだ。

「みなさーん、お久しぶりでーす」

 そう高崎さんが言うと教室内に歓声が上がった。

「高崎せんせー!」

「えー、マジですかあ!?」

「うわー、感激でーす」

 とか言って、占い待ちをしていた人も一斉に立ち上がって高崎さんを囲んでワイワイ騒ぎだした。

「おらー、お前たちー、占いの邪魔になるから静かにしろー」

と山口先生が一喝して騒ぎを収めたけど、それでも高崎さんを囲む輪が無くなった訳ではなかった。みんな高崎さんと一緒に写真を撮るのに夢中になっているからだ。

 高崎さんは相変わらず小学生を思わせるような恰好だが藍をも上回る巨乳だけは健在だ。恐らく高崎さんを上回るのは藤本先輩だけじゃあないかなあ。

 俺は高崎さんと写真を撮った最後の一人になったけど、写真を撮った後に

「高崎先生、このクラスが一番先ですか?」

「そうですよー。でも、わたしが実習で行ったクラスには全部行きまーす。それに午後からは山口先生がゲスト出演する軽音楽同好会のライブも見に行きますから」

「そう言えば山口先生は今日の午後は大忙しですからねえ」

「わたしも楽しみにしてるんですよー」

 そう言っているうちに易の占いが終わったようで、村田さんから催促されて慌てて高崎さんは村田さんの前に座った。

 当然だが高崎さんの登場に藍を始め占いを担当している人だけでなく、占い待ちの連中、それに裏方の内山たちも興奮しているし、一番興奮しているのは、これから高崎さんを占う事になる村田さんだ。珍しく額に汗をかいて高崎さんの運勢を占っていた。高崎さんは占いの結果が出る前に村田さんに大学での話や教員試験の予定、面接の予定なども話してた。札幌・函館・旭川・帯広の4つのトキコーを運営する学校法人「時計台」の高校部門の教員試験も高崎さんは受ける予定になってるらしいが「教員試験を受けるまでの段階まで来れたのはあなたたち2年A組のみんなの声援があったからだよ」と言ってたから、村田さんも恐縮していた。もし教員試験に受かって、しかも札幌のトキコーの教壇に立てれば一番いいとも言ってて、村田さん自身も「そうなった時には3年の国語の授業はぜひとも高崎先生の授業を受けたい」と言って二人で笑顔を交わしたのを最後に高崎さんはA組を出て行った。その後は隣の2年B組『レオナルド・ダ・ヴィンチの遺産』で歓声が上がったから、高崎さんはB組に顔を出したのだろうな。

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