第151話 唯だけは本番

「「「行ってきまーす」」」


 今日は3人で登校なのだが、俺は朝から憂鬱な気分だから、さっきから唯が話し掛けてきても生返事しかしてない。

「たっくーん、どうして朝から憂鬱そうな顔をしてるの?」

「もしかして拓真君はトキコー祭の準備がうまくいってなくて心配してるの?」

「いや、準備はほぼ完ぺきだ。だからそういう事じゃあなくて・・・」

「じゃあ、何でたっくんは朝からゲッソリしてるのよ」

「それは・・・スマン、言いたくない」

「はあ?それじゃあ分かんないじゃあないの!」

「唯さん、ちょっと落ち着きなさい!」

「すみません・・・ちょっと唯も言い過ぎました」

「拓真君も朝からそんな調子だと、最後まで持たないわよ!」

「何とかなると思うけど・・・帰ってからの事を考えると憂鬱なんだよ・・・」

「えー、たっくんは絵里お姉さんが嫌いなの?」

「いや、嫌いじゃあない。姉貴とも兄貴とも別に亀裂がある訳じゃあない」

「じゃあ、何で拓真君は憂鬱なの?」

「それは・・・会えば分かる」

「「会えば分かる?」」

「そういう事だ」

 そう、俺が憂鬱な理由は、藍と唯が姉貴に会えば即座に分かるはずだ・・・。


 午前の授業が終わりお昼ご飯を食べ終わったら、どのクラスも部も同好会もトキコー祭の準備作業に取り掛かった。トキコー祭に参加しないのは、俺が所属しているクイズ同好会だけだ。

 山口先生が気合を入れた顔をしながら

「おーし、お前らー、気合入れて準備に取り掛かれよー!」

 と俺たちに喝を入れた後、早速俺たちは事前に決められた役割分担に従って作業を始めた。一部は部や同好会のイベント準備に行っているので、クラスイベントの準備作業をするのは半分程度だ。

 机の大半を予備教室へ運んだ後は、明日のイベントの為の教室と廊下の飾りつけ及び会場作りだ。

「たくまー、コレってどこに貼るんだ?」

「たくまー、このパソコンが動かないんだけどー」

「あにきー、これの数、予定していたよりも少なくない?」

など、俺はあちこちから声を掛けられて体がいくつあっても足りないくらいだ。まあ、俺から言わせれば全部マニュアルに書かれている通りにやってくれ、と言ってやりたいのだが、全部読まずに勘で進める奴が多すぎて非常に困っている。

 幸いにしてクラス委員の村田さんと昨年の実行委員である泰介が俺の補佐をしてくれているお陰で、クラスの準備作業は何とか予定時間内に終わらせる事ができそうだ。

 今年も唯はクラスイベントを仕切っていて、まさに影の実行委員だったのだが今はここにいない。昼休みが終わり、各クラスや部・同好会が準備作業を始めると同時に更衣室に行ったからだ。

 どうして更衣室に行ったのか・・・今日の唯はクラスイベントの準備作業をやる訳ではない。唯だけは早くもトキコー祭本番なのだ!

 廊下が急に騒がしくなった。唯が戻ってきたというのクラスの誰もが気付いているし、その理由も分かっている。唯は・・・早くもメイド服を着て教室に入ってきたのだ。しかも更衣室を出て教室に来る間、他のクラスの連中が大騒ぎをして唯をスマホで撮りまくっていて、どうやら準備作業を一時中断して廊下で撮影している連中もいるみたいだ。

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