晴天の霹靂

第128話 負けると分かっている戦(いくさ)

 トキコー祭まで2週間を切った。

 そして月曜日からは、ある話題一色になった。そう、今年のミス・トキコーは誰がエントリーするのかという事だ。

 今年から決まった新ルールにより月曜日から受付が始まり、既に何人かはエントリーしているのだが最終的には今日の昼休みまでがエントリー期間だ。

 エントリー用紙は担任経由で実行委員会、いや、正確には黒田先生が預かっているので、誰がエントリーしたのかを知っているのは黒田先生だけだ。一応、人数だけは黒田先生が執行部のメンバーに伝えてあるので、当日の運営計画はその情報に基づいて作られている。

 だが、今年はある意味「面白くない」という意見が一部に出ていたのも事実だ。その理由は既に分かっていると思うが、今年は「出来レース」とまで言われているくらい結果が見え見えなのだ。1年生の多くが相沢先輩と藤本先輩に流れてしまった事と、昨年の唯の発言が元で事前運動に規制が掛かった事、そして、何より藍と唯の二人が「今年は負け戦ね」と投げやりなので、藍派会長を自認する内山も、唯派会長を自認する中村も既に匙を投げた状態なのだ。なので藍派も唯派も自主投票のような雰囲気になっている。


 その「出来レース」が崩れる事態が起きようとは、誰も想像していなかった。


 今日は金曜日、つまりトキコー祭実行委員会のある日だ。既に昨日から誰がエントリーしたのかという噂話で持ちきりなのだ。

 そんな中、今朝は藍が風紀委員担当なので俺は唯と一緒に家を出る事になる。

 既に藍は30分くらい前に家を出ている。が、今日に限って唯が家を出ようとしない。いや、部屋から出てこないのだ。しかも、お気に入りのヘアピンを探している訳でもない。異常な程、静かなのだ。

 さすがにもう時間だ、これ以上は待てない。俺は仕方なく直接唯の部屋へ呼びに行く事にした。

 階段を上がって唯の部屋の前へ行き、部屋をノックした。


“トントン”


 俺は唯の部屋の扉をノックしたが、何故か何も返事がない。


“トントン”


 もう1回ノックしたが返事はない。

 おかしい、いくら何でも返事が無いのはおかしい。まさか二度寝とは思えないし・・・。

 俺は恐る恐るといった感じで部屋のノブに手を掛け、ゆっくり扉を開けた。

「おーい、唯、もう時間だぞ」

 俺は顔だけ部屋の中に入れて中を覗いた。そうしたら、唯が机の上でボンヤリと座っていた。ただ、心なしか、いや、間違いなく生気がないような顔で座っていた。

「おーい、唯、どうしたんだ?」

 俺が再び唯に声を掛けると、唯が「はっ」と顔を上げて俺の方を向いた。

 明らかに集中力を欠いている。何かあったのか?

「おーい、もう時間だぞ。さすがに行くぞ」

「あー、ごめんごめん・・・ちょーっと、考え事をしていて・・・」

「考え事?」

「うん・・・たっくん、負けると分かっているいくさに挑むときは、どういう覚悟を示せばいいの?」

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