第75話 模擬授業
今日は授業が無い日なので、いつものようにチャイムも鳴らない。そのため、授業の開始も終了もチャイムの代わりになるのはキッチンタイマーであり、山口先生は基本的にタイムキーパーだ。高崎さんは講師で、俺と藍、唯は生徒だ。
「おーい、そろそろ始めようか」
「あー、いいですよー」
「ただ、佐藤きょうだいに一つだけ言っておくけど、みなみの事は『高崎さん』ではなく『高崎先生』と呼べよ」
「そういえばそうでしたね。実習生といえども、実習中は『先生』と呼ばれるんでしたね」
「そういう事だ。まあ、さすがに昨年は初日に『たかみな先生』とか言っていた男子が数名いたようだが、放課後に生徒指導室へ連れていかれたからなあ」
「あー、それは俺も初耳ですよ」
「そのうちの一人は佐藤拓真の知っている奴だよ」
「へ?」
「『な』のつく、クイズ同好会のメンバーだ」
「ああ、文学王ね。あいつ、筋金入りのBKAオタクだからなあ」
「そういう事だから気を付けろよ」
「じゃあ、唯も気を付けます」
「私もです」
「はー、ますます緊張してきましたねえ」
「高崎先生、リラックスですよ、リラックス」
「唯さん、ありがとう。でもねえ、私も『先生』って言われると滅茶苦茶緊張するのよねー。本音では『高崎さん』の方が楽だけど、ダメかなあ」
「みなみー、お前、教師になってからも『高崎さん』と呼ばせる気か?ここは慣れだから仕方ないぞ。だから、今から模擬授業が終わるまでは『みなみ』と言うのも封印して『高崎先生』と呼ばせてもらうぞ。そう言う訳だから『久仁子さん』も厳禁だ。『山口先生』と呼べ」
「はあい、分かりましたよ、『山口先生』」
「うむ、よろしい」
「それじゃあ、高崎先生に山口先生、そろそろ2年A組に行きましょう」
「ああ、いいぞ」
「いいですよー」
そう言って、俺たち五人は2年A組に向かった。
山口先生はキッチンタイマーと教科書、テキスト、それとバインダーと何かが書かれた紙を数枚持ってる。多分高崎さん、失礼、高崎先生の授業内容を書き留めて色々と問題点を書いて行くつもりだろう。
高崎先生は教科書とテキスト、それとファイルを持っている。俺たち佐藤きょうだいは鞄だけだ。その鞄の中に入っているのは、国語の教科書とテキスト、それと筆記用具にノートだ。
俺たち5人は2年A組に入った後、高崎先生は教壇に教科書とテキストを置き、ファイルは教師用の机の上に置いた。俺と藍、唯は自分の席に座って教科書とノート、テキスト、筆記用具を取り出し、いつも通りの状態だ。山口先生は廊下側の真ん中、つまり平野さんの席に座り、わざと机を横に向けた。つまり、高崎先生と俺たちを両方観察できる体制にして、こちらも準備万端の状態だ。
「おーい、そろそろ始めていいか?」
「俺たちはいつでもいいですよ。高崎先生は?」
「はあい、大丈夫ですよー」
「じゃあ、始めるぞ」
そう言うと山口先生はキッチンタイマーを押した。『ピッ』と鳴って、タイマーのカウントダウンが始まった。
「それでは授業を始めます。教科書の・・・」
高崎先生は授業を始めた。
今日の模擬授業の範囲は、1学期中間テストの範囲でもある、古文の『竹取物語』の概要だ。竹取物語自体は有名な話だから誰でも分かると思うけど、これを古文で書かれると途端に難易度が上がる。多分、文学王の長田なら古文であろうと現代文であろうと竹取物語の一字一句まで覚えていそうな気がするし、その言葉が何を指し示すのかを問われた時に瞬時に答えを言いそうだが、普通の人は無理だろう。
俺たちは高崎先生の授業を聞きながらノートを取っている。授業の内容だけでいったら、恐らく山口先生よりも分かり易いと感じたのは俺だけだろうか?
ただ、俺は高崎先生の授業を受けてみてとある致命的な欠点に気付いた。もしかしたら藍や唯も気付いたかもしれないし、山口先生も気付いているかもしれない。実際、山口先生は高崎先生の授業内容を見て、聞いて色々とメモを取っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます