184話

「いやー、絶景じゃのうー!」


 魔導船の甲板で、心地よい風を浴びながらノブナガは空の景色を楽しむ。

 かなりの速度が出ているのだから、風の抵抗とかも凄そうと思われがちだが、そこは魔導船。

 魔法で動いてるだけあり、そこら辺の対策もきちんとされている。

 詳しい事は分からないので、外に出ても風で吹き飛ばされないという事だけ分かってもらえれば助かる。


「ヤマトから出たことが無かったから新鮮じゃ」


 こちらを振り向いたノブナガは、本当に嬉しそうに笑う。

 嬉しそうな表情を見ると、こちらまで嬉しくなってくる。


「えー? ノブナガって、ヤマトから出たことないの?」


 ノブナガの台詞に、フォレは驚いたように言う。

 ヤマトのトップ相手になんて態度だと思われるかもしれないが、ノブナガ自身が呼び捨てとタメ口を提案してきたのだ。

 まあ、俺達全員が基本的に敬語使わないから助かると言えば助かる。


「うむ。なんせ、ワシは次期当主じゃったからな。勉学やらなにやらで忙しかったんじゃ」


 あー、まあ殿様だもんなぁ。この時代では国ごとに戦争とか無いから、その分政治に力を注ぐことになる。

 当然、そっち方面の勉強も必要になってくる。

 ……良かった。王族じゃなくて。

 

「じゃから、こうやっておぬしらと出会えたのは幸運じゃ。おかげで、外に出られたからの」


「て言っても、ノブナガが勝手についてきたんだけどな」


 別に俺らが誘ったわけではないので、礼を言われても返答に困ってしまう。


「まあ、それはそうなのじゃが、切っ掛けはおぬしらじゃよ。……ただ、ヤマトに帰ったら怒られるじゃろうなぁ」


 怒られるでしょうな。

 特に、ミツヒデとヒサヒデには物凄く怒られそうだ。

 追おうにも行き先が分からないので、追ってきようが無いし、家臣達は気が気じゃないだろう。

 なんというか、ご愁傷様である。

 

「……そういえば、聞くの忘れてたけどノブナガって戦えるのか?」


 なんだかんだで機会が無くて、聞きそびれてしまっていた事を尋ねる。

 ヤマタノオロチ討伐でも留守番だったし、アヅチに移動中も特に魔物に襲われなかったので、ノブナガの戦闘力は未知数だ。


「それなりには戦えるのう。足手まといにはならんから安心せい」


 ノブナガは、そう言ってカラカラ笑う。

 ちなみに、今のノブナガの格好は、上はノースリーブの和服。下は袴っぽいやつに足甲を付けている。

 武器は見当たらない。

 

「ノブナガって魔法で戦うの? 武器は見当たらないけど」


 フォレも疑問に思ったのか、首を傾げながら尋ねる。


「ああ、ワシは武器は必要ないんじゃ。魔法で生成できるからの。そういえば、属性を教えておらんかったな。ワシの属性は……っとと⁉」


 ノブナガが属性の事を話そうとしたところで、爆発音と共に突然船が揺れる。


「な、なんじゃ?」


 ノブナガ達と一緒にきょろきょろと辺りを見回す。

 すると、少し離れた所に別の魔導船があった。

 こちらに向かって砲台が伸びているので、おそらくはあの魔導船が攻撃を仕掛けてきたのだろう。

 こちらの魔導船内は、突然の揺れに騒然としていた。


「あーあー、聞こえるか!」


 混乱が収まらない中、拡声魔法を使っているのか攻撃をしてきた魔導船から男の声が響く。


「我々は空賊だ! 命が惜しけりゃ、金目の物を差し出せ! 若い女も一緒にだ!」


 なるほど、空賊か。

 魔導船自体が高価であるため、空賊自体の数が少なく、遭遇率は低いのだが何とも運が無い。

 基本、空はパトロールのしようが無いので、一度魔導船を手に入れてしまえば、このように狩り放題なのだ。

 流石に、同じ場所ではやらずに場所を変えてはいるようだが。

 当然、そういったリスクがあるから警備の冒険者も雇っている。

 魔導船の乗船料が高いのは、そういった理由もある。

 それでもなお襲ってくるのは、それだけ戦力に自信があるからだろう。

 そうこうしている内に、空賊の船がこちらの船に隣接し、ガラの悪い男達が乗り込んでくる。


「よーし、貴様らー! 死にたくなければ大人しくしてろよー」


 リーダー格の男が前に出てくるとそう叫ぶ。

 空賊達は、それなりに良い装備で固めている。魔導船を持っているくらいだから資金はあるのだろう。

 そこまで金があるんだったら、真面目に働けばいいのにと思う。

 そんな事を考えていると、ガタイの良い兄ちゃんがズイッと前に出る。


「てめーら、運がねーな。警備の中に俺が居たんだから」


 どうやら警備として乗ってたらしい兄ちゃんは、自分の身の丈程もありそうなデカい斧を担ぐ。


「俺は優しいからよ、このまま何もせずに帰るってんなら……がぁ⁉」


 しかし、兄ちゃんは最後まで台詞を喋る事が出来ず足から崩れ落ちる。

 どうやら、空賊のリーダーが銃で兄ちゃんの太ももを打ち抜いたらしい。

 

「ひ、卑怯だぞ! 人が喋っている最中に攻撃を仕掛けるなんて!」


「はっ! てめーは馬鹿か? そんなもん待ってやる義理はこっちにはねーんだよ。こちとら略奪者だぞ?」


 ごもっともである。

 相手の前口上を最後まで聞いてやる義理なんて無いからな。

 世の中、先手必勝。勝てばよかろうなのだ。


「俺達は優しいからよ? 一回目は許してやる。だから、死にたくない奴は、さっさと金目の物を……よこせええええ!」


 リーダーは、銃を上空に向けて威嚇で一発放つ。

 それだけで、周りにいた乗客達は中へと逃げていく。

 逃げていく中には、ちらほら冒険者っぽいのが居た気がしたのだが……まあ、いきなり銃をぶっ放してくる相手に戦いたくないだろうな。

 今は銃だったが、奴らがどういう魔法を使うかもわからない。

 しかも、ここは魔導船の上なので迂闊に威力の高い魔法も使えない。向こうは、そんなものは気にしないが、こちらはそうもいかないのだ。

 他の空賊達も中へと追っていくが、俺達はそれはスルーする。

 中にはあいつらが居るから、巻き添えを食らいたくないのだ。

 気づけば、甲板には俺達三人だけになっていた。


「へっ、なんとも意気地がねー奴らだ」


「リーダーに恐れをなして逃げていきやがったぜ」


 残った空賊達は、逃げ惑う人達を見ながらあざ笑う。


「残ったのは女三人か……人間二人と……おお、エルフか」


 空賊達は、フォレに気づくと下卑た笑みを浮かべる。

 そして、当然の如く女にカウントされる俺。

 おかしーなー、髪の毛短髪にしたはずなんだけどなー。


「リーダー! エルフですよエルフ! こいつは、絶対連れていきましょう!」


 ああ、やっぱこの世界でもエルフって人気あんのね。

 

「他の二人も上玉だし……この分だと、他の乗客も期待できそうだな」


「ねーねー、アルバ君。ボク、モテモテだよモテモテ!」


 フォレさんや、貴女は何でそんな嬉しそうなんだい。


「よし、まずはてめーら。こっちへ来てもらおうか。おっと、この人数相手に勝てると思うなよ?」


 リーダーは、銃を向けながら、そう要求してくる。

 ふむ、どうしたものか。見た所、人数は三、四十人程か。

 

「って、ノブナガ?」


 俺が、どう倒そうか考えているとノブナガがリーダー達の方へと近づいていく。


「貴様らは罪の無い人間を殺したことあるか?」


「あ? そりゃもう抵抗してくる人間は何人も殺してきたぞ。俺に掛かってる賞金も結構な額になってんじゃねーか?」


 ノブナガの質問に対し、リーダーは自慢げに答える。

 わー、クズだなー。とっても、ぶちのめしがいがある。


「そうか……なら、心置きなくぶちのめせるのう!」


「あ……が⁉」


 瞬間、巨大な黒い拳がリーダーを盛大に殴り飛ばす。

 リーダーは、そのまま吹き飛ばされ、奴らの魔導船に突き刺さる。

 気づけば、ノブナガの後ろにはでっかい影の様なものが浮かんでいた。

 上半身だけのソレは、筋骨隆々で戦国武将を彷彿とさせるフォルムだった。

 ていうか、あれ絶対ス〇ンドだよね。


「な、なんだありゃ……⁉」


 他の空賊達も、ノブナガの後ろに浮かんでいる影に驚いている。


「これはワシの魔法じゃ。対象の背負う業が深ければ深い程威力を増す。その名も『ロクテンマオウ』。さあ、貴様らの罪を数えろ!」


 あんたは、どこの改造人間だよ。

 そこからはもうノブナガの無双状態だった。

 迫りくる敵をちぎっては投げちぎっては投げの無双である。


「動くな!」


 しかし、その無双も終わりを告げる。


「それ以上暴れてみろ。この女の命は無いぞ!」


 二人の男が、俺とフォレの首元にナイフを突きつけて叫ぶ。

 オーット、俺トシタ事ガ油断シテシマッター。

 コイツハ、マイッタゼ。


「わー、こわいよー」


「タスケテータスケテー」


「貴様ら、卑怯じゃぞ!」


 俺達が怯えていると、ノブナガはギリっと唇を噛みながら睨みつけてくる。


「へ、へへへ……そうだ。大人しくしてろよ? 中に入っていった奴らが戻ってきたら、たっぷり遊んでやるからよ」


「中に入っていった奴らとは、こいつらの事か?」


「へ?」


 突如聞こえて来た声に、そちらを向けばダウンした空賊達を踏みつけているジャスティナの姿があった。

 ……なぜダウンしている空賊達が全裸なのかは考えたくない。


「ば、馬鹿な⁉ そいつらは、俺達の中でも精鋭なんだぞ⁉ それがこんなあっさり……」


 ああ、その人は邪神チートがあるから普通の人は勝てません。


「残っているのは貴様らだけだ。大人しく降伏すればよし。しなければ……」


「ま、待て! 人質が見えないのか⁉」


 一歩前に出るジャスティナに対し、男は叫ぶ。

 ジャスティナは、俺の方を見るとフッと軽く鼻で笑う。


「人質? 何処に人質が居るというのだ?」


「ああ? てめー、こいつらが見えなおごぉ⁉」


 突然、男は白目をむいて股間を押さえながら倒れこむ。

 心なしか口から泡も吹いているようだ。

 いやー、“偶然”動かした腕が“偶然”相手の股間に当たっちゃったよ。

 金属の籠手が思いっきり股間に打ち付けられたら、そりゃ悶絶するよね。めんごめんご。

 隣を見れば、フォレを人質に取った男も白目をむいて倒れていた。


「まったく……大人しく捕まるなんてどういうつもりだ?」


「いやー、こいつら中々ゲスだったからさ。優位と思わせてどん底に叩き落としたかったんだよね」


 悪人に人権無し。目には目を歯には歯を。外道には外道で返すのが俺の流儀だ。


「はっ、何とも貴様らしい」


 俺の言葉に、ジャスティナは愉快そうに笑う。

 そういえばノブナガの方はどうなったのかとそちらを見れば、空賊達は全滅していた。

 

 こうして、空賊達はあっという間に全員お縄となった。

 奴らの失敗は、俺達が乗ってる魔導船を襲った事だな。ご愁傷様。

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