179話
目的の場所までまだ時間が掛かるらしく、その間俺はリーベから話を聞いていた。
「ワイズマンが、完全に裏切りました。どうやら、前から気づかれないように根回しをしていたらしく組織の過半数が、奴の配下です」
リーベから現在の状況を聞いたジャスティナは、眉をひそめながら尋ねる。
「……七元徳の方は?」
「俺とキリエは、ジャスティナ様の味方です。リスパルミオは……行方が分からないです」
キリエって、確か信仰だったか。腐女子。
リズは今、エレメアと一緒だからワイズマンの件は、下手したら知らないかもしれない。
俺は、その事をジャスティナ達に伝える。
敵にわざわざそんな事を教えて良いのかとツッコまれそうだが、今のジャスティナ達はもう敵にならない。そんな感じがしたのだ。
「なら、ワイズマン側に付いたのはそれ以外になりますね」
というと……ジャスティナ、リーベ、キリエ、リズはこちら側。
んで、ワイズマン側がエスペーロと……七元徳残りである勇気か。
「そういえば、勇気を司る奴ってどんな奴なんだ?」
そういえば、そいつだけ会った事が無いなと思いジャスティナ達に尋ねる。
「奴自体は、とても臆病な奴だな。あまり、自分で戦いたがらない」
勇気なのに臆病なのか。今までは、七元徳を体現してる奴ばかりだったから少し意外である。
「厄介なのは、奴のまほ「着いたぞ」」
ジャスティナ達と話していると、ヒサヒデが口を開く。
いつの間にか目的地に到着していたようで、馬車が止まっていた。
続きが気になったが、ヤマタノオロチの件の方が優先なので、俺達は会話を中断し外に出る。
馬車から降りた俺達は、目の前の光景を見て一瞬固まってしまう。
――竜が寝ていた。
八つの首は絡まない様に器用に重なりあって寝息を立てていた。
デカい。それが俺の感想だった。
流石にギガ程ではないが、充分デカく威圧感を放っていた。
俺達の気配に気づいたのか、ヤマタノオロチは目を覚ますと、十六の瞳をこちらへ向ける。
『……何用だ? また、性懲りもなく我を倒しに来たか?』
脳内に、厳かな声が響く。
コイツ……直接脳内に⁉
おそらくは、ヤマタノオロチによるテレパシーだろう。
アレを運んできた兄ちゃん達は、すっかり腰を抜かしてしまっている。
意思疎通が出来ると分かったのは大きい。
奴が戦闘態勢に入る前に、俺は一歩前に出ると口を開く。
「ヤマタノオロチ様。実は、私達は貴方様の偉大なるお力に敵わないと分かりました」
『ふむ……まあ、そうであろう。矮小な存在である貴様らが竜種である我に勝てる訳が無いのだから』
俺の言葉に、ヤマタノオロチは当たり前だと言わんばかりに頷く。
あ、コイツちょろい。
少し会話を交わしただけだが、俺はコイツが割とちょろい部類だと判断した。
「私達は、貴方様に忠誠を誓う事にいたしました。つきましては、街でも選りすぐりの娘と上等な酒を用意いたしました」
俺は、そう言いながら兄ちゃん達に目配せをする。
それを合図に、兄ちゃん達は何とか立ち上がると街から持ってきた大きな酒樽を荷台から降ろしてヤマタノオロチの前へと突き出す。
『ほおっ……!』
酒を前にして、ヤマタノオロチは嬉しそうな声を出す。
やっぱり酒が好物だったか。
ここら辺は、地球産のヤマタノオロチと変わらない。
『確かに……我は、酒も女も好きだ。だが、何処でその話を聞いた?』
奴は、嬉しそうにしつつも警戒するようにこちらを見ながら聞いてくる。
「はい、話を聞いたところ、女性は無傷だと聞きましたのでもしやと思いまして……。酒に関しましては、私の勘……といった所でしょうか。もしお嫌であれば、別のを用意するつもりでした」
俺は恭しく頭を下げながら、そう答える。
『ふむ、まあ納得出来なくもないな……。酒も、どうやら何も変な物は入って無さそうだ』
ヤマタノオロチは、酒の匂いを嗅ぎながら言う。
やはり、そういうのは匂いで分かるか。
当初、ノブナガ達は毒を混ぜると言っていたのだが、俺がやめさせたのだ。
もし、奴が毒の匂いが分かるようなら逆上して襲い掛かってくる可能性があったからだ。
事実、奴は匂いが判別できたので俺の判断は正しかったと言える。
「つきましては、こちらの酒を私達でお酌をさせていただきたいのですが、如何でしょうか?」
俺の提案に、ヤマタノオロチはしばらく思案する。
『……良いだろう。ただし、男共は帰れ。我は男は好かん』
よし! 掛かった。
まずは第一段階が上手く言った事で、俺は内心ガッツポーズをする。
俺は、此処まで酒を運んできてくれた兄ちゃん達に礼を言い、そのまま帰って貰った。
『……しかし、このままでは飲みづらいな。どれ』
ヤマタノオロチはそう言うと、煙に包まれ始める。
俺達がその様子を見守っていると、やがて煙が晴れてきて人影が現れる。
流れるような銀髪の髪。切れ長で爬虫類を彷彿とさせる瞳。いかにも東洋人といった顔立ちに、中国辺りの民族衣装を着ていた。
そして、風貌が全く同じ男が八人居た。
なるほど、八つの首がそれぞれ分割した感じか。
これが実力も八分割なら良いのだが、実力はそのままだったりしたら笑えない。
八分割されていることを祈るばかりである。
「さあ、宴を始めようか」
男の一人が、そう口を開いた。
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