146話
「それではこれよりー! 大武闘大会を開催いたします!」
ステージの中央に立つ審判らしきお姉さんがマイクを片手に叫ぶ。
バニースーツのようなものを着ており、頭からのぞく2つの丸っこい耳と尻尾が印象的だ。
「開会式は、トウェルブシスターズの
「「「うおおおおおおお!」」」
ラットと名乗るお姉さんが、マイクを観客席に向けると割れんばかりの歓声が響く。
学園の武闘大会など比べ物にならない程の熱気だ。規模が全く違う。
ちなみに、トウェルブシスターズというの12人の獣人娘により編成されたアイドルグループらしい。
俺は知らなかったが、ブラハリー達のエレメントスリーのようにこの地方ではアイドル活動が盛んらしい。
まあ、趣味嗜好が地球と似通っているから不思議でもないけどな。
「試合の進行は私達、トウェルブシスターズが持ち回りで担当するからよろしくー! それじゃあ、早速開始宣言を主催者である市長さんからしてもらいまーす!」
ラットの言葉と共に、好々爺といった感じの小柄なおじいさんがステージ上に現れる。
「えー、毎年恒例の大武闘大会。今年も三ヶ所で別々のルールで開催されます。この闘技場では魔法あり、武器あり、なんでもありのまさに最強を決める戦いです。皆さん、盛り上がっていきましょう」
市長が短く挨拶をすると、またもや歓声が上がる。歓声に答えるかのよう市長はペコリと頭を下げると、マイクをラットに渡して下がっていく。
「ありがとうございましたー! 富! 名声! 様々な欲望渦巻く大武闘大会! 賞金一億リラは誰の手に⁉ 前年度、前々年度優勝者、マッスル・ノーキン選手の宣誓と共に大会スタートだぁ!」
ラットの紹介の後、今度はやたらマッシブな男が現れる。
ていうか、チラシを見た時も思ったが賞金一億リラってやばすぎだろ。それを全ての大会で払うというのだから、武闘大会による経済効果は計り知れない。
「俺がー! マッスル・ノーキンだ! いいか、貴様ら! 今年もこの俺が優勝をいただく! 貴様らは、俺の踏み台になれることを誇りに思え!」
「ふざけんなー! 今年こそ、てめーを引きづり降ろしてやるからなー!」
マッスルの言葉に野次が飛ぶが、そこに怒りは無く毎年恒例の掛け合いのようにも聞こえた。
マッスルにしても、その言葉を聞くと満足そうに頷く。
「はっはっは! 今年も活きの良い奴らが集まってるよーだな! ちなみに、弟のハッスル・ノーキンも肉弾戦オンリーの方で優勝をかっさらうからそのつもりでな! そんじゃ、大武闘大会……やるぞ、おらーーーーーー!」
マッスルの宣誓に、三度上がる大歓声。
こうして、大武闘大会は無事に開催されたのだった。
◆
「アルバ」
開会式が終わり、予選が始まったころにエレメアに手招きをされる。
予選は、学園の武闘大会の時と同じで予選はバトルロイヤル方式で一回の戦いでトップ二人が選出され、合計十六人となる。
「どうしました?」
エレメアに連れられ、俺は部屋の隅へとやってくる。
「予選の事なんでちが、ちょっと条件を付けるでち」
「条件?」
エレメアの問いに対し、俺は首を傾げていると彼女はコクリと頷く。
「予選は、魔法を禁止するでち。もちろん、武器を作るのは良いでちが……それ以外の魔法は使っちゃダメでちよ」
「なんでまたそんな条件を……?」
「此処に居る奴らは土属性を甘く見ているでち。なら、予選ではまだ油断させておいて本戦で一気にぶちかますでち。注目度的には予選よりも本戦の方が圧倒的に上でち。だから、本戦まで温存するってわけでち」
なるほどな。
確かに、注目度の高い本戦でド派手な魔法をぶちかませば一気に注目されるだろう。
しかし、エレメアの言い分は分かるが果たして魔法なしで勝ち残れるものだろうか?
「大丈夫でち。ざっと見た感じでは、お前の戦う奴らは魔法なしでも勝てるような奴らばっかでち」
俺の表情から不安を感じ取ったのか、エレメアはそう言って励ましてくる。
うーん、エレメアがそう言うならやってみるか。
「それでは、予選一回戦を開始いたしまーす。選手の方は入場してくださーい!」
おっと、もう時間か。
今回、俺は予選一回戦目でブラハリー達エレメントスリーは別ブロックだから、本戦まで当たる事は無い。
他の二人は分からんが、ブラハリーはおそらく本戦に上がってくるだろう。
あいつは、俺と違って才能がある。俺は、ほぼ反則というかズルに近い方法で強くなったが、あいつから正統派な強さを感じた。
本戦で戦う事を考えると、少しワクワクする。
「……ま、とりあえずは予選を勝ち抜かなきゃな」
俺は、一番使い慣れた武器――ハルバードを生成するとステージに向かう。
「よく集まったな有象無象共! 本戦への切符を掴むのは一体誰なんだ⁉」
ステージ外では、先程のラットが実況をしている。
ていうか、有象無象共って口悪いなおい。
武闘大会の時にも自称アイドルの実況が居たが、この世界のアイドルは口が悪いのがデフォなんだろうか。
「それじゃー、予選一回戦……始めーぃ!」
ラットの合図と同時にあちこちで轟音が響き渡る。
音の方を見れば、人が舞い上がっていたので誰かが魔法を放ったのだろう。
学園の武闘大会とは違う気迫に圧倒されながらも、俺は武器を構えるのだった。
◆
「しゃーおらー!」
「よっと! せい!」
カトラスに紫電を纏いながら斬りかかってくる男を得物でいなし、柄の部分で相手の腹を突く。
男は、呻き声を上げながら武器を落としてそのまま倒れ込む。
「……ふう」
俺は、額から流れる汗を拭いながら周りを見渡す。
予選開始からしばらく経ったが、意外と魔法なしでも戦えている自分に驚いている。
なんというか、相手の動きが手に取るように分かるのだ。
まあ、ケットのスピードに慣れたというのもあるが、こいつらの動きはそう早くない。
まさに、見える……僕にも見えるぞ! 状態で無双状態である。
このままいけば、「そなたこそ、一騎当千の武将よ」とか言われるかもれしない。
「
「ととっ!」
俺がそんな事を考えていると、横から風の蛇が俺の武器に巻き付き空中に放り投げてしまう。
強くなったとはいえ、俺の地力自体は普通の大人よりも劣る。今まで倒せてたのも相手の急所を的確に突いてたからだ。
体格が小柄というのは、こういう場面ではやはり不利だな。
「へっへっへ、チビの癖に中々やるじゃねーか! だが、魔法を使ってない所を見ると、攻撃用の魔法を持ってねーんだろ? 武器が無けりゃただのガキよ。俺の本戦の為の犠牲になりな!」
俺の武器を奪った男は、小物臭全開なセリフと共に襲い掛かってくる。
こういう反応は、エレメアの思惑通りなのでこうも上手くいくと少し可笑しくなる。
一瞬、魔法を使ってビビらせてやろうと思ったが、禁止されていることを思い出しすぐに思い止まる。
「うらぁ!」
男は、俺がろくな魔法を使えないチビと侮っているのか、手に持っている棍で殴りかかってくる。
馬鹿め。魔法ならまだしも近接攻撃なら対処できるわ。
俺がどれだけケットに武器でボコボコにされたと思ってるんだ。俺は、両手を前に突き出し棍を絡めとるように腕を回す。
「うぉ⁉」
まさか、俺の方から近づいていくと思わなかったのか男は驚き身を竦ませる。
「真殺拳奥義……
もう片方の腕を鞭のようにしならせると、相手の顎を的確に打ち抜く。
「かっ……⁉ こへっ……」
顎を綺麗に打ち抜かれた男は、目をぐるんと回し涎を垂らしながら倒れ込む。
気絶したことで魔法も解除されたのか、俺の武器も空から戻ってくる。
おかえり、マイウェポン。
先程の技は、ケットから教えてもらった真殺拳の技の一つだ。
他にも、いくつか技は教えてもらっている。着々とオールラウンドで戦えるようになってきているので喜ばしい限りだ。
「さて、良い感じに人が減ってきたな」
辺りを見回せば、いつの間にか両手の指で足りるくらいの数になっていた。
って、あれ?
「あー、アルバさーん♪」
見覚えのある人物が居ると思えば、向こうも俺に気づいたのか嬉しそうにぶんぶかと手を振っている。
「人数が多かったので気づかなかったんですが、アルバさんも同じ予選だったんですね」
「エスポワールさんも居たんですね。気づかなかったですよ」
エスポワールは、汗だくの俺とは対照的に汗一つ掻いていなかった。
右手には、音叉に似た大剣が握られている。
「どうかしましたか?」
似たような武器を持っている男に心当たりがある俺が嫌そうな顔をしているとエスポワールが話しかけてくる。
「いや……少し嫌な事を思い出しましてね。気にしないでください」
変わった形の武器など、この世界ではいくらでもあるので何ら珍しくも無い。
あんな
「そうですか? まぁ、それならそれでいいですけど……とりあえず、残りの人を片付けちゃいましょうか。本戦に上がれるのはトップ二人。つまり、私とアルバさんは本戦に行けるってわけです」
「よぉ、ねーちゃん。随分威勢がいいな? 俺達に勝つ気で居るのかよ?」
エスポワールの言葉に、一人の男が青筋を浮かべながら近づいてくる。
「もちろんですよ。貴方達のような雑魚では……希望になりえません。そんな人達に私は負けませんから」
「なに……? がっ⁉ あああああああ!」
ねっとりとした笑みを浮かべながら喋るエスポワールに、男は訝しげな表情をしたかと思うといきなり頭を抱えて倒れ込む。
「ほらね? こんな見た目が地味な魔法に手も足も出ないんですもん」
エスポワールは、頭を抱えて倒れている男を見下ろしながら冷たく言い放つ。
なんというか、先程前のほわほわとした雰囲気と打って変わって薄ら寒いものを感じる。
「それじゃ……アルバさんの為にも残りの雑魚を片付けてしまいましょうか」
彼女はそう言い放つと、残りの相手も謎の不可視の攻撃により撃沈させる。
「ほ、本戦出場を決めたのは、アルバ選手とエスポワール選手だー! 皆さん、二人に盛大な拍手を!」
拍手に包まれる中、エスポワールは笑顔でこちらに近づいてくる。
「本戦……楽しみにしてますからね?」
俺の耳元でそうつぶやいた彼女は、拍手を背に受けながら控室へと戻っていくのだった。
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