131話
「どわあああああああ⁉……あ?」
迫りくる巨大ハンマーに死を覚悟して絶叫を上げながら、上半身を起こすと周りが変わっていることに気づく。
迫ってきていたハンマーどころか、エレメアやフラム、アルディ達が消えており俺だけが地面に倒れていた。
「ここは……?」
同じ森の中なのだが、厄災の森が禍々しい雰囲気に包まれていたのに対し、今居る森はとても清々しい空気で満たされている。
ここが、エレメアの言ってた女神達の居る場所なのだろうか。
「っ……!」
そんな事を考えていると唐突に頭痛に襲われ、俺は頭を押さえてうずくまる。
まるで、今まで押さえていたものが爆発しそうな感じだ。
「あ……がっ……」
頭がいよいよ爆発すると錯覚しそうなくらい痛みが増した瞬間、俺は今までの事を思い出す。
5歳の時、アルマンドに背中を刺された後、この世界に来て女神達と出会ったのだ。
そして、修行をして魔力が増えたことや女神達の事を必ず覚えてると約束したことまで思い出す。
ここでの事を全て思い出すと、先程までの痛みが嘘のようになくなった。
だが、今度は別の意味で俺は焦る事になる。
あんだけカッコつけて、絶対忘れませんとか言ってたのに、実際は綺麗さっぱり忘れていた。なんてカッコ悪いにも程がある。
「これ……会わないで帰れないかなぁ」
などど言いはするものの、帰る手段なんか知らないので結局あの人達に頼るしかないのだ。
「はぁ……とりあえず、会いに行かなきゃな」
久しぶりに会うので嬉しい反面、すっぱり忘れてたので気まずい気持ちもあり複雑な心境で進んでいく。
重い足取りでしばらく進んでいると、やがて森が開けて広い場所に出る。そこには、かつて見た神殿のような建物があった。
「懐かしいなぁ……ん?」
俺が懐かしい気持ちに浸っていると、向こうから土煙を巻き上げて何かが猛スピードで迫ってくるのが見える。
目を凝らしてよく見てみると、俺と最も縁のある茶髪ツインテールの女の子が走ってくるのが分かった。
「アァァルウゥゥバアァァ‼」
合法ロリこと土の女神ウィルダネスは、空高くジャンプするとそのまま顔の前で腕をクロスさせ俺へと落下し激突してくる。
「げぶぅ⁉」
避ける間もなく、ウィルダネスのフライングクロスチョップを喰らった俺はそのままよろけて地面へと倒れてしまう。
この世界の女性は、なんでこうもバイオレンスなのだろうか。
人によってはご褒美かもしれないが、そういう趣味の無い俺にとっては辛いだけだ。
「アルバ! あんた、私の属性を持ってるくせに何で邪神に乗っ取られかけてんのよ! このっ! このっ!」
ウィルダネスは、そのままマウントを取ると俺をボコスカ殴ってくる。
「ちょ、た、タンマタンマ! 暴力反対です!」
「ほらほら、ウィルダネスさん。アルバさんが困ってらっしゃいますから」
俺が必死に抵抗していると、同じく懐かしい声が聞こえてくる。
青い髪が特徴的なゆるふわ系美人で下ネタ好き水の女神のキャナルさんだ。
「フーッ! フーッ!」
キャナル様に抱えられながら、ウィルダネスは興奮した猫のように息を荒くしている。
「大丈夫だったか、アルバ。それと、久しぶりだな」
「……やっほー、アルバ君」
そこへ、赤い髪の褐色美人の火の女神アグニさんと緑色の神のスレンダー美人ラファーガさんまでやってくる。
全員、女神と言うだけあって相変わらず美人だ。
「皆さん、お久しぶりです。お元気そうで安心しました」
「アルバ君こそ、元気そう……。例外はあるみたいだけど」
ラファーガ様が、俺の頭を撫でながら言ってくる。
例外と言うのは、先程ウィルダネスも言っていた邪神の事だろう。
「あ、そうなんです。実は、そのことで……」
「まあ、こんなとこで話すのもなんだし、こっちへ来な。色々説明してやるからさ」
俺が邪神について話そうとしたところで、アグニさんが遮り手招きをするので俺はそのままついていくことにする。
◆
「改めて……久しぶりだな、アルバ」
とある部屋に通された後、アグニさんが笑顔で話しかけてくる。
「はい、お久しぶりです。すみません……俺、覚えているって言ったのに……」
「ふん、別に期待してないわよ。偶然この世界に来た人間は、例外なく記憶を失うって決まってるんだし」
出会った時から機嫌の悪いウィルダネスが鼻を鳴らしながら言う。
うーん、いくらなんでも機嫌が悪すぎじゃないだろうか。
「ウィルダネスの言う通り、記憶を失うのは確定事項だからお前が気に病む事じゃねーよ」
「そうですよ? それに、ウィルダネスさんったら今はこうですけど、邪神に乗っ取られかけた時すごい心配してたんですからね?」
「あの時のウィルダネスは見ててユニークだった」
「ちょ、キャナル姉様にラファーガ姉様! あの時の事は秘密にしてと……!」
2人の女神に秘密をばらされたウィルダネスは、先程までの不機嫌さが嘘のようにアタフタと慌てる。
あれか……ツンデレか。
「誰がツンデレだ!」
「ツンデレだよな?」
「ツンデレですね」
「ユーアー、ツンデレ」
怒るウィルダネスに対し、アグニさん、キャナルさん、ラファーガさんが冷静にツッコむ。
「というわけで、満場一致でウィルダネス様はツンデレです。おめでとう」
「うぎぎ……!」
俺達がパチパチと拍手しながらウィルダネスを祝福すると、何故か彼女は歯ぎしりをしながら怒りを我慢するかのように体をプルプルと震わせる。
一体、何が気に入らなかったのだろうか。
「とまあ、ウィルダネスで遊ぶのはこれくらいにして本題に入ろうか」
アグニさんが軽く手を叩き、視線を集中させると話を始める。
「まず、アルバ。お前は、自分の体の中にある邪神の制御をするために来たんだよな?」
「そうですね。僕の世界のエレメアって人がこちらへ送ってくれました」
「また敬語に戻ってやがるし……。まあ、そこは後で追及するとして結論から言うと邪神の制御自体は可能だ。ただし、お前の頑張り次第になるがな」
良かった。せっかく、ここまで来たのに無理ですなんて言われたらどうしようかと思ったぜ。
「お前は、邪神についてどこまで知っている?」
「えーと、災厄をもたらす存在で、一見プラスに見えるけど実はデメリットが大きい呪い振りまくゲス神?」
「間違いではないけど、随分な言い方ね」
俺の答えに対し、ウィルダネスは呆れたように言う。
だって、今までの感じからするとそんな感じなんだもん。
「そこは否定はしないがな。んで、邪神ってのは、基本俺達には倒すことが出来ない。それどころか、あの世界の生物ですら、例外を除いて倒すことは不可能だ」
「そんなに強いんですか……?」
そういえば、あの五英雄でさえ封印が限界だったもんな。
「いや、正直に言うと単純な強さで言えば俺達の方が強い。だが、奴は存在自体が特殊なんだ。地球のゲームで言うところのバグ。つまり、本来は誕生するはずの無いイレギュラーな存在なんだ」
バグ。そんな事を誰か言ってたような気がするが誰だったかな……?
思い出せないし、今は良いか。
「奴は、世界の理から外れていて、主神アキリですら干渉できないんだ。そして、主神の創作物である俺達も奴に直接干渉することはできない」
「じゃあ……奴を倒すことはできないんですか?」
「一応、倒せる存在は居ますね。それは……邪神と同じく、この世界の純粋な存在ではない事」
「つまり、地球みたいな異世界から来た奴や転生してきた奴ね」
俺の問いにキャナルさんとウィルダネスが答える。
それってもしかして……。
「そう、アンタや五英雄の1人のアヤメって言ったかしらね。もちろん、他の転生者にも倒せる可能性はあるわ」
その言葉を聞いて、俺はごくりとつばを飲む。
邪神を倒す。まるで物語の主人公のような事が可能だと聞き、少しだけテンションが上がる。
もしかしたら、俺にもそれが可能かもしれない。
土魔法で邪神を倒せたら、それこそ地位向上など容易い事だろう。
「無理ね。邪神に乗っ取られかけて、その一部ですら制御できない奴が倒せるわけないじゃない」
しかし、俺の心を読んだウィルダネスがあっさりと打ち砕いてくる。
正論だけに何も言えない。
「ま、あくまでその可能性があるってだけだ。お前はお前で、制御する事だけを考えな」
「そう……ですね。今は、こいつを制御して強くなる事だけを考えます」
「うんうん。よし、そんじゃ早速始めるか」
アグニさんは、そう言って指を鳴らすと今まで居た場所が一変してコロシアムのような場所に移る。
「今から、お前の中に入っている邪神の一部を具現化させる。邪神の力ってのは、結局のところ強い精神力が無ければ抑えることが出来ない。精神だけのこの世界でそれを示すには……」
「そいつを倒すしかないってことですね」
アグニさんの言葉を引き継いで俺が喋ると、肯定だと言わんばかりに頷く。
一部とはいえ、邪神と戦うことに対し少なからず緊張する。
ここで勝てないようじゃ、邪神本体に勝つなど夢のまた夢だろう。
「具現化する邪神は、今はお前の一部だから負けても死にはしない。だが、勝てない限り制御は不可能だから頑張れよ」
「ふん、まあ頑張りなさいよね」
「頑張ってくださいねー」
「……がんばれ、がんばれ」
…………うん、女神達に応援された以上頑張るしかないな。
「そんじゃ、具現化するぞ!」
アグニさんが、空中に何か魔法陣を描くと俺の中から何かが出ていくような感覚に襲われる。
そして、アグニさんが描いた魔法陣から俺そっくりの人物が現れる。
姿かたちは俺と瓜二つだが、唯一違う点は奴の髪の毛が真っ黒だという事だ。
「ギャハハハハハハ! いよー、アルバ。俺様を屈服させるんだって?」
俺の顔で下品に笑いながら、こちらに向かって話しかけてくる。
便宜上、黒い
「ああ、お前を制御してお前の本体をぶっ倒してやるよ」
「ギャハ! そんなの無理に決まってんだろ? 何故かって? ここで、お前を倒して俺が成り替わるからだよぉ!」
クロバは、そのまま黒い魔力を纏いながらこちらへと迫って来るのだった。
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