117話
「とぉっ!」
サンタファイブと名乗る魔物どもは、掛け声と共に華麗に地面に着地する。
服の色は、それぞれの名前に合わせた色だが、全て爺さんなのでかなりシュールだ。
「さぁ、独り身の怨念を受けるがいい!」
レッドサンタが、こちらを指差しながら叫んでくる。
ていうか、こいつら他の奴と比べて随分喋り方が流暢だな。
亜種とかいう奴だろうか。
「あー、その前に質問良いですか?」
他のレッドサンタと違って話が通じそうだったので、気になった事を聞いてみることにする。
「ふむ、良かろう!」
どうやら、意外と話の分かる魔物のようだ。
「貴方達は、なんでこの時期に大量発生するんですか?」
「ふ、愚問だな。我らは、人間の嫉妬等の負の感情によって生まれるのだ。それが、この時期になると格段に強くなるので、我らが大量に生まれるというわけだ」
なるほど。この世界にもクリスマスではないが、似たような行事がある。
恋人や家族と幸せな時間を過ごすことに、妬みを持つ人間たちが居て、それに反応してコイツらが生まれているのか。
「我らを生み出したのは、人間の自業自得。それを人間の勝手で、退治されるなど筋が通っていないと思わないかね?」
……確かに、奴らの言う通りかもしれない。
人間の都合で生み出しておいて、一方的に退治するというのは、いかがなものだろうか。
「アルバ様……確かに、生み出したのは人間かもしれませんわ。それでも、他の方たちに迷惑を掛けて良い理由にはなりません。彼らは、生まれながらにして罪を背負う可哀そうな存在なのですわ」
俺が、サンタファイブの言葉に流されそうになっていると、フラムがそんな事を言う。
「……貴方達は、このまま大人しくどこかでひっそりと暮らすつもりはありませんか?」
フラムの言う事も分かるが、サンタ達にも同情すべき点はある。
お互い、平和に解決できない物だろうか。
「無いな。我らの目的は、リア充共の撲滅。幸せを壊すことこそ至上の喜びよ」
「そうだ!」
「幸せをぶちこわせ!」
「カレーが美味しい!」
「恋人がなんぼのもんじゃい! 独り身最高!」
レッドサンタの言葉に反応し、他のメンバーも各々叫ぶ。
この調子では、おそらく説得も通じないだろう。
「戦うしか……無いのか」
転生前は、非リア充だった為、奴らが生まれた理由が痛い程よく分かる。
分かるからこそ、理由を聞いてしまった今は、少し躊躇ってしまう。
「ふん、我らは元よりそのつもりよ。喰らうがいい、嫉妬の炎を!」
レッドサンタは、そう叫ぶと曲芸師の様に、口から真っ赤な炎を吐き出す。
「アルバ、危ない!」
奴らに同情して、反応が遅れてしまった俺を庇うように、アルディが石壁を生成して炎を防ぐ。
「アルバ! あいつらを野放しにしてたら、色んな人が不幸になるんだよ? それが、アルバ望む事なの?」
「そうですわ。彼らを倒すこと。それが、彼らを救う道でもありますわ」
「アルディ……フラム……」
2人の真剣なまなざしに俺は、頭の中でグルグルと色んな事を考える。
一体、どうするのが正しいんだ。
「はっ! 女に守られるなんぞ、見た目通りの女々しい奴め! 喰らえ、嫉妬の
雷槍!」
石壁を飛び越えるように、高くジャンプしたイエローサンタが左右の手から雷の槍を発生させると、こちらに向かって投げてくる。
「くっ!」
アルディの次は、フラムが俺を庇うように立ち塞がると両手に銃を構え、炎を纏った弾丸を放つと2本の雷の槍を撃ち落とす。
「貴様ら! なぜ、そんな女々しい男を守る! そんな奴、守る価値も無いではないか!」
「それは、私達がアルバの事を大好きだからだよ!」
グリーンサンタが不可視の風の刃を放つと、アルディが再び石の壁で防ぎながら叫んで答える。
「そうですわ! 貴方達が、ちょっかいを出しても無駄なほど、私達はアルバ様を想っているんですの!」
フラムも、アルディに負けじと叫びながら銃弾を連続で発射し、サンタファイブを牽制する。
「ふぇふぇふぇ、ならば貴様らの愛の深さ、確かめてやろうではないか」
今まで大人しくしていたピンクサンタが動き出すと、両手を前に突き出し手をハートの形にする。
「ワシの虜になるがいい。ラブラブ熱視線ビーム!」
ピンクサンタの言葉と共に、奴の手からいくつものハート型のビームが飛び出し、フラムとアルディの方へと向かっていく。
「っ! 危ない、2人共!」
直感的に、それが危険だと感じた俺は、ほぼ無意識に2人の前に出ていた。
「アルバ様!」
「アルバ!」
2人の悲痛な叫びを聞きながら、俺はピンクサンタの攻撃を受けるのだった。
「……?」
しかし、確かに攻撃を受けたはずなのに、俺の体には何のダメージも無かった。
一体どうなってるんだ?
「ふぇふぇふぇ、不思議そうな顔だな」
「……あ、あ」
可笑しそうに笑うピンクサンタの方を見ると、俺は急激な動悸に襲われ、地面に膝をついてしまう。
体温が急上昇し、呼吸も荒くなる。
緊張とめまい、冬なのにもかかわらず汗も噴き出してくる。
「大丈夫、アルバ⁉」
「どこか痛むんですの?」
フラムとアルディが、何やら心配そうに声を掛けてくるが、俺は今そんな言葉すら気にならず、目の前の人物に視線が釘づけになる。
「予定とは違ったが、これはこれで結果オーライだな」
「くくく、相変わらずピンクサンタの魔法はえげつない」
「まあ、我らは今年誕生したばかりだがな!」
サンタファイブは、冗談を言い合いながら余裕綽々で笑っている。
俺は、震える体を無理矢理立ち上がらせ、ふらつきながら彼らの元へと近づいていく。
「そのフサフサな純白の髭。だらしなく弛んだお腹……趣味の悪いピンク色のサンタ服……なんて、素敵なんだ」
「アルバ様⁉ いつから、そんな同性愛に目覚めたんですの!」
目の前のピンクサンタが愛おしくて仕方ない。
彼の言う事なら、それこそ何でも聞いてしまいそうだ。
「ふぇーっふぇっふぇっふぇ! これこそ、我が魔法『ラブラブ熱視線ビーム』よ。これを喰らった者は、どんな者であろうとワシの虜になるのだ!」
「そんな……アルバが変態ジジイに惚れるなんて……」
ピンクサンタ様の言葉に、アルディはショックを受けたような表情を浮かべ、がっくしと肩を落とす。
「大丈夫だよ、アルディ……僕は今、とても幸せなんだ……」
俺は、ピンクサンタ様を愛するために生まれてきたのかもしれない。
「して、ピンクサンタよ。これからどうするのだ?」
ブルーサンタが、ピンクサンタ様に話しかけてくる。
「当然、こやつと彼女らを戦わせるのよ。こやつを愛する女との戦い。見てるだけで、愉悦だのう」
「くっくっく、お主も悪よのう」
「じゃあ、お主は見ないのだな?」
「見るに決まっておろう」
「「「「「クハハハハハ!」」」」」
サンタファイブは、心の底から楽しそうに笑っている。
ピンクサンタ様が楽しそうにしていると、俺も楽しくなってくる。
「さて、おぬし……」
「アルバです」
「アルバ。そこの2人と戦うがいい。勝てば褒美をやるぞ」
「ピンクサンタ様の仰せのままに」
俺は、仰々しく頭を垂れるとアルディとフラムの方へと向く。
「アルバ様……嘘ですわよね?」
「ごめんね、2人とも……ピンクサンタ様の言う事は絶対なんだ」
「アルバぁ! 目を覚ましてよぉ!」
2人は、泣きそうになりながら叫んでくる。
その様子を見ると、何故だか俺の心は締め付けられ、頭痛がしてくる。
「ぐっ……く……」
そうだ……2人は俺の大切な存在……だ。ピンクサンタの様な奴の言いなりになって、戦うわけには……行かない……!
「ほう? 意外と粘るのう。ならば、もう一度喰らうがいい!」
「あぐぁ⁉」
背中に、何か衝撃が走ると俺は、先程よりも激しい動悸に襲われ、ピンクサンタ様のことしか考えられなくなる。
「さぁ、早くあ奴らを倒すがいい」
「……はい」
俺は、魔法を唱えながら、目障りな女の元へと近づいていく。
すべては、ピンクサンタ様の為……。
「どっこいしょぉ!」
「んがぐ⁉」
女の声と共に、突如脳天に痛みと衝撃が走り、俺はあまりの痛さに地面を転がり回る。
「があああああ! あ、頭がぁぁぁぁぁ!」
「なはは、危なかったねぇ。アルバ」
「タ、タマ姉? な、なんで此処に……」
頭をさすりながら見上げると、そこには刀を肩に担いだタマ姉が立っていた。
「いやー、偶然こっちに来たら、なんだか不穏な雰囲気じゃん? んで、ちょっと未来を見たら良くないのが見えたから、アルバの魅了状態を解除したってわけ」
「魅了状態?」
「あら、覚えてなーい? さっきまで、そこのピンクジジイに操られてる状態だったんだよ?」
そういえば、確かそんな感じだった気がする。
あのピンクジジイのせいで、俺はアルディ達を……っ
「って、それって状態異常も解除できるんですか?」
「まあ、実体の無い物を斬る刀だからね」
うわ、超便利。
「アルバ様。心配しましたわよ……」
「まったくだよ!」
フラムとアルディが、怒ったような安堵したような複雑な表情で近づいてくる。
「ぐぬぬ、ワシの魔法を解除するとは生意気な奴め! もう一度だ……『ラブラブ熱視線ビーム』!」
ピンクサンタは、憤慨しつつ再度、あのハート型のビームを放ってくる。
「あ、それもう効かないから」
しかし、タマズサさんが俺達の前に立つと、そのビームをあっさり斬り捨てる。
あの妖刀、まじで便利だな。少し欲しいかもしれない。
「という事で、アルバ。あいつの攻撃は気にせず遠慮なくやっちゃいなさい」
「……ク、クククク。サンタ共……覚悟はいいな?」
タマズサさんの言葉に、俺はゆらりと立ち上がるとサンタファイブを睨む。
俺を操るだけなら、いざ知らず。
フラムとアルディを手にかけさせようとしたことは万死に値する。
「お、おーけー。まずは、話をしようじゃないか」
サンタ共は、冷や汗を垂らしながら後ずさりをする。
「問答無用ー!」
「「「「「みぎゃーー!」」」」」
その日、空から大量のサンタが降り注ぎながら光となって消えていったという。
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