114話

「はっ、ヤツフサが何かハーレムになってるような気がする」


「いきなり何言ってるんですか」


 魔石を取りに行ってから2日後。

 ゼペットの所に行く前に、宿屋で朝食を取っていると、タマズサさんがいきなり訳の分からない事を言いだす。


「いや、なんていうかさ……女の勘? いや、姉弟として勘かな。なんか、ヤツフサがこうしてる間にも着々とハーレムを築いているような気がするんだよね」


 ヤツフサか……学園を卒業してからは、何か忙しいみたいで全然会えなかったんだよな。

 城の人の話だと、元気でやってるみたいだが、久しぶりに会いてーなー。

 こっちでひと段落着いたら、会いに行ってみるのも良いな。


「それにしても……ハーレムか」


 ヤツフサは結構イケメンだし、モテてもおかしくないよな。モフモフだし。

 モフモフだし! 


「……アルバ様は、ハーレムに興味がおありですの?」


「男の子だからね~」


 俺の言葉に反応して、フラムがジト目でこちらを見てくる。

 そして、タマズサさんは全てを悟ったような顔をして、ニヤついている。


「まぁ、興味が無い……と言えば嘘になるかなぁ」


 仮にも男の子ですから? 女の子に良く間違われたり、自分でも開き直っていたりするけど、ちゃんと男としての欲求もありますし?

 ハーレムにも興味がありますよ、ええ。


「……アルバ様が望むなら私は構いませんわよ」


 俺が正直に答えると、フラムはそんな事を言ってくる。


「え? なんでまた……」


 フラム的には、そういうのって嫌そうな雰囲気がしたんだけどな。


「元々、貴族の方は複数の妻を取りますし、別段珍しい事ではありませんもの。それに、独占欲の強い女性って思われてしまうのも嫌ですから」


 確かに、貴族は本妻の他に妾がよく居るな。うちの父さんは母さん一筋だったから1人しか居ないが。

 

「もちろん……私が1番だったら、それだけで満足ですわ。あ、アルバ様のお気持ちが最優先ですが」


 フラムはそう言って、儚げに笑う。

 その様子が健気で個人的にかなり胸キュンだった。

 ただ、フラムが許可してくれるのは良いが、いざ作るとなるとあんまり気が進まない。

 ハーレムは確かに夢ではあるが、元が地球の一般家庭育ちの非モテ野郎だったので、複数人の女と関係を持つって言うのが、いまいちピンと来ない。


「フラムがそう言うなら考えておくよ。でも、安心して? 俺の中では、永遠にフラムが1番だから」


 小さいころから、俺を一途に思い続けてくれたのなんてフラムだけだしな。

 アルディは、愛は愛でも家族愛とか親愛とかそっちだし。


「アルバ様……」


 俺の言葉に、フラムは頬を赤らめながら嬉しそうに微笑む。


「はいはい、お熱いことですねー」


 タマズサさんは、やさぐれた顔をしながら舌打ちをし、不機嫌さを隠そうとしない。


「タマ姉も、綺麗なんだからモテそうなんだけどな」


 実際、綺麗なので男はより取り見取りな気がするんだよな。

 ちなみに、タメ口なのはタマズサさんに敬語禁止と言われたからだ。

 それでも敬語で話しかけていると、罰と称してハグを喰らうというご褒美、もといお仕置きをされたので、タメ口で話している。


「あー、私って、そこら辺のイケメンとかゴツイ男とか興味ないんだよねぇ」

 

 タマズサさんは、うげぇっと嫌そうな顔をしながら手をパタパタと振る。


「私が好きなのはさ。アルバやフラムちゃんみたいなちっちゃくて可愛い子なんだよね。だから、恋人にするならアルバみたいな子が理想だね」


 タマズサさんは、グッと握りこぶし作り、そう力説する。

 ダメだこの人……真性だった。

 折角のモフモフなのに、なんて残念な人なのだろうか。


「あ、そうだ! 私をアルバのハーレムに入れてよ! 折角、本妻の許可も下りたんだしさ!」


「あ、遠慮します」


「あれぇ⁉ なんで! 男の子っておっぱい好きでしょ! ほらほら!」


 俺が即答すると、タマズサさんは予想外とばかりに驚くと自身の胸を強調してくる。

 いや、おっぱいは好きですが。巨乳も貧乳も等価値で好きです。おっぱいに貴賎なし。


「ほ、本妻……」


 タマズサさんの言葉に、フラムは顔を真っ赤にして両手で顔を覆っている。

 正直、今すぐ抱きしめたいくらい可愛いが、人目もあるので自重する。


「なんか、そういう適当な感じで付き合うのは何か違うって言うか……もっと真摯に付き合いたいんだよね」


 これは、俺がただの童貞野郎だからこその意見かもしれないが、何か違うんだよね。

 フラムとも、真剣に悩んで付き合ってるわけだし。


「ぶー。いいもんいいもん。いつか合法ショタの旦那見つけるから」


 合法ショタ言うな。

 見た目が子供で中身が大人を合法ショタなら、ヤツフサの場合は違法ショタ?


「って、もうこんな時間か。そろそろ行かないと」


 朝からアホな会話を繰り広げていると、既に朝の10時を過ぎている。

 あんまり遅く行って、アルディ達を待たせるわけにも行かないので、朝食をさっさと平らげ、俺達はゼペットの家へと向かう事にする。



「おお、ようやく来たな」


 ゼペットの家に着くと、既にゼペットが家の前に立っていた。


「すみません、お待たせしました。あの、アルディは?」


「おお、中で待っておるぞ。我ながら、久々にいい仕事したわい」


 俺の問いに、ゼペットは後ろのドアを指差しながら答える。

 ……この中に、人間サイズのアルディが居るのか。

 今までは、人形サイズだったので、大きくなったアルディと対面するのは少し緊張する。


「さ、アルバ様。開けてくださいませ」 


「僕が開けるの?」


「当然ですわ。アルディさんは、アルバ様の契約精霊ですもの。最初に見る権利がありますわ」


「そもそも、私は部外者だからそんな権利ないしね」


 むう、2人にそう言われたら俺が開けるしかないか。

 俺は、ごくりと唾を飲みながらドアノブに手を掛けて、ゆっくりと回すとドアを徐々に開いていく。


「アルディ……ンゴ⁉」


 扉を開くと、突如何かが体当たりをしてきて、俺はそのまま勢いに押され倒れてしまう。


「アルバー! 私、ようやく大きくなれたよ!」


 激突してきた何かを確認すると、正体はアルディだった。

 人形サイズをそのまま大きくした感じだ。

 

「流石に、服はこの短時間で用意できなかったから、後で自分で用意してやれよ」


 アルディの服装を確認すれば、いつものゴスロリ服ではなく、ミニスカメイド服を着ていた。


「……ちなみに、このメイド服は」


「ワシの趣味」


 ですよねー。

 

「えへへ、やっとアルバと同じ大きさになれた」


 俺に抱き着きながら、アルディは心底嬉しそうに笑う。

 サイズが大きくなったせいで、距離が非常に近く、少しドキッとしてしまう。

 しかし、すぐに妹にときめいているような背徳感と罪悪感に襲われ、自己嫌悪に陥る。


「ア、アルディ。立ち上がりたいから、一旦離れようか」


「うん……分かった」


 俺の言葉に、アルディは少し残念そうな顔をしながらも俺からは離れて立ち上がる。

 俺も、汚れを叩きながら立ち上がると、俺と同じ目線にアルディが居ることに若干の違和感を覚える。

 まあ、今まで人形サイズだったので当たり前と言えば当たり前か。


「……あら? 少し、アルディさんの方がアルバ様より背が高いんですのね」


「あ、本当だ」


 特に身長の指定はしてなかったが、改めて比べてみるとアルディの方が俺よりも若干高い。

 

「ゼペットさん。アルディの身長って意味有るんですか?」


「ん? そりゃあ……男であるお前さんより女の子の背を高くして、お前さんを悔しがらせたいからじゃよ」


「ゲスか!」


「ふはははは、褒め言葉褒め言葉」


 俺のツッコミに対し、ゼペットさんは愉快そうにゲラゲラと笑う。

 おい、このジーさん。廃棄処分した方が世の中の為なんじゃないか?

 くそ、これでパーティの中で俺が一番チビになってしまった。

 ……牛乳の量、増やそうかな。 


「ま、まあまあ良いではありませんか。それよりも、タマ姉様に紹介しませんと」


 おっと、色々あって忘れてた。

 後で覚えとけよ、ジジイ。


「覚えてたら覚えとくわい」


 人の心を勝手に読むな。


「ごほん! タマ姉、紹介が遅れたけど、この子が僕の契約精霊のアルディ。んで、アルディ。こっちがタマズサさん。君の魔石を取りに行くのを手伝って貰ったんだ」


「よろしくねー、犬のお姉ちゃん!」


 大きくなっても相変わらずの様で、アルディは無邪気な笑みを浮かべながら元気よく挨拶する。


「……」


 しかし、ゼペットさんと出会ったあたりからずっと静かだったタマズサさんは、アルディの挨拶に対し無反応で突っ立っている。

 あれ、この展開どっかで見たぞ。


「……此処が、天国か」


 タマズサさんは、一言だけそう呟くと大量の鼻血と共に地面に倒れ伏す。

 ちょ、メディーック! メディーック!

 天丼展開は回避したが、むしろ天丼展開だった方が無事に済んだんじゃないかと思いながら、倒れたタマズサさんを全員で家の中に運び入れるのだった。

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